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ドキュメンタリー映画『オードリー・ヘプバーン』新世代が迫る新たなオードリー像
2022.05.05
生前のオードリーの肉声がリアリティを増幅する
オードリーがこの世を去って30年目に日本で劇場公開される本ドキュメンタリーは、輝かしい足跡を遺して足早に旅立っていった伝説のアイコンが何者だったのかを、新世代が受け継ぎ、映像に焼き付けようとした野心作と言える。その代表がショーン・ヘプバーン・ファーラーであり、孫娘のエマ・キャサリン・ヘプバーン・ファーラーであり、そして、監督のヘレナ・コーンだ。エマとコーンはオードリーが亡くなった翌年の1994年生まれ。コーンは若々しい感性と好奇心を武器に演出に取り組んでいる。
母親がオードリーの大ファンだったというコーンの主な作業は、コメンテーターたちへの出演依頼と、アーカイブ映像や資料の収集だった。中でも、オードリーにインタビューしたことがあるジャーナリストたちの中で、唯一録音テープを提供してくれたグレン・プラスキンの功績は大きい。オードリー以外にもキャサリン・ヘプバーンやエリザベス・テーラーへのインタビューで知られるプラスキンは、80年代後半〜90年代前半頃に録った、雑誌「LIFE」のオードリー本人へのインタビューをデータ化し、コーンに送ってくれたという。その肉声が作品の要所要所に配置されたことで、製作者たちが目指した真実が文字通りリアリティを持つことになる。
『オードリー・ヘプバーン』©Sean Hepburn Ferrer
コーンによると、オードリーの知られざるインタビュー・テープは、誰かの引き出しの中に他にも眠っているはずだと言う。だとすれば、その人物像はさらに深まっていくのではないだろうか。この作業にまだまだ終わりはない。
あの独特の少し掠れた声で、心の傷について語る時のオードリーは、決して暗くなく自分の人生を肯定しているかのようだ。そんな本人の言葉と関わった人々の言葉が束ねられ、「愛に飢えていると、愛を与えたくなる」という結論に達する時、人生の最後の時間をユニセフ親善大使としての活動に費やした、あの力強い姿が浮かび上がるのだ。
スターの晩年は必ずしも明るいものではない。しかし、そもそもスターである以前に家庭人だったオードリーが、世界の紛争地で傷つき飢える子供たちの姿を、かつて戦火を必死に切り抜けた自分自身に重ね合わせ、命を削って慈善活動に捧げたその人生の結び方は、1人の女性として見てもロールモデルと呼べるものではないだろうか。
新世代が描くこのドキュメンタリー映画は、また新しいオードリー・ファンを開拓しそうである。
アパレル業界から映画ライターに転身。映画com、ぴあ、J.COMマガジン、Tokyo Walker、Yahoo!ニュース個人"清藤秀人のシネマジム"等に定期的にレビューを執筆。著書にファッションの知識を生かした「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社刊)等。現在、BS10 スターチャンネルの映画情報番組「映画をもっと。」で解説を担当。
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『オードリー・ヘプバーン』
5月6日(金)TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国公開
配給:STAR CHANNEL MOVIES
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