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『妹の恋人』言葉の代わりに花束を、ジョニー・デップ初期の秀作

(c)Photofest / Getty Images

『妹の恋人』言葉の代わりに花束を、ジョニー・デップ初期の秀作

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薔薇の花束



 ベニーはジューンを施設に入れることを明らかに嫌がっている。そしてジューンが自分の目の前からいなくなってしまうことを恐れている。サムとジューンに怒りを撒き散らしてしまったことを、ベニーはおそらく後悔している。放心状態のベニーは何かに導かれるようにルーシーの家に立ち寄る。ルーシーこそが自分の帰りたい「家」だと気づいたベニーは、ジューンにとっての帰るべき「家」を考えるようになる。こういった感情の動きが台詞で明かされることはない。だが見ている者には確実に伝わってくる。ある意味損な役割を演じているともいえるエイダン・クインの抑制された演技は、デップやマスターソンと並んで称賛されるべきだろう。


 サムと共に家を飛び出したジューンが、バスの中で徐々にパニックに陥っていくシーンも素晴らしい。ここでも台詞は最小限に抑えられ、マスターソンの独演にスポットが当てられている。パニックに陥ったジューンを、サムはバスの窓越しにしか見ることができない。ジューンは施設に保護されてしまう。


『妹の恋人』(c)Photofest / Getty Images


 失敗を挽回する機会は待っている。今度はサムが窓越しにジューンの笑顔を取り戻すことに成功する。サムは帽子を脱いで一礼するかのようにジューンを迎える。彼女を尊重する紳士的な振る舞い。ここで初めてサムは騎士として彼女を迎える。紳士的な振る舞いはベニーにも伝染する。薔薇の花束を持ったベニーは白い薔薇をルーシーに、ピンクの薔薇を恋人たちに贈る。ベニーは言葉を介さない恋人たちだけのコミュニケーションを目撃する。二人の時間を邪魔しないように、そっと床に置かれた薔薇の花束。ここでも沈黙は尊重される。ベニーは身振りで表明する礼節を二人から学んでいる。


 二人の門出を祝福するピンクの薔薇が、ジューンが描く油絵のように眩しい色彩を放ち続ける。言葉の代わりに添えられた花束。『妹の恋人』という作品を何かの花にたとえるならば、薔薇の花以外には考えられないのだ。


*1 『DEPP デップ』(クリストファー・ハード著・松井貴子訳)

*2 INLANDER 「SpIFF 2018: Benny & Joon director Jeremiah Chechik talks about how Spokane influenced the film



文:宮代大嗣(maplecat-eve) 

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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