双方が参加した歴史の”追体験”
製作過程においてグリーングラスが大切にしたことがある。それは「アイルランド人にとって忘れ難く、イギリス人にとっては忘れたい歴史」と呼ばれるこの事件の映画を、イギリス側とアイルランド側、双方が密に協力して作り上げることだ。どちらの視点が欠けても成立しない。この強靭なまでのこだわりは、ジャーナリストの肩書きを持つ彼ならではの「中立性」や「検証」に全てをかける精神から来るものなのかもしれない。
同様のスタンスは、出演者に関しても貫かれた。デモに参加するおびただしい数のエキストラには、事件当時の目撃者や関係者が数多く含まれたそうだ。ロケ場所のダブリン郊外まで、ロンドンデリーからマイクロバスを連ねてやってきた人も多勢いた。一方のイギリス軍側のエキストラには、元駐留兵を含む多くの従軍経験者たちがキャスティングされた。
『ブラディ・サンデー』(c)Photofest / Getty Images
こういった意味でも、フィルムに焼き付けられた双方の存在は、もはや演技の域を超えたものだった。それこそ、あの日の出来事の「再現」、あるいは「追体験」と呼ぶほうが相応しいだろう。
そんな彼らの姿を、撮影監督のアイヴァン・ストラスバーグが活写する。グリーングラスが全幅の信頼を寄せる彼は、通常の機材を使わず、照明すら用いることなく撮影に臨んだ。カメラはどんな場面でも手持ちオンリーで、ドリーやクレーンの使用はなし。映画の文法と呼ばれるものも半ば無視して、時には数十分間、被写体の動きに即興で対応しながらノンストップで撮り続けた。この集積がとてつもないリアリティとなって、まるで事件の渦中に放り出されたかのような映像へと結実したのだ。