1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ベルファスト
  4. 『ベルファスト』自伝をフィクションとして再構築した、ケネス・ブラナーのパーソナルな作品
『ベルファスト』自伝をフィクションとして再構築した、ケネス・ブラナーのパーソナルな作品

Ⓒ2021 Focus Features, LLC.

『ベルファスト』自伝をフィクションとして再構築した、ケネス・ブラナーのパーソナルな作品

PAGES


『ベルファスト』あらすじ

ベルファストで生まれ育ったバディ(ジュード・ヒル)は、充実した毎日を過ごす9歳の少年。イギリスへ出稼ぎへ行っているパ(ジェイミー・ドーナン)、厳しく愛情深いマ(カトリーナ・バルフ)、頼りになる優しい兄ウィル(ルイス・マカスキー)、良き相談相手の祖母グラニー(ジュディ・デンチ)、ユーモラスな祖父ポップ(キアラン・ハインズ)ら良き家族と大好きな友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、笑顔にあふれ、たくさんの愛に包まれる日常は彼にとって完璧な世界だった。しかし、1969年8月15日、暑い夏の日。バディの穏やかな世界は突然の暴動により悪夢へと変わってしまう。プロテスタントの武装集団が、街のカトリック住民への攻撃を始めたのだ。住民すべてが顔なじみで、まるで一つの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断されていく。暴力と隣り合わせの日々のなか、バディと家族たちは故郷を離れるか否かの決断に迫られる――。


Index


ケネス・ブラナーのパーソナルな作品



 ケネス・ブラナー監督の出世作は、シェイクスピアの戯曲を基にした89年の『ヘンリー五世』。同じ戯曲を基にした同名作品をローレンス・オリヴィエが監督・主演作として44年に作っているが(オリヴィエ版の邦題は『ヘンリィ五世』)、様式美で見せていたオリヴィエ版とは異なり、泥臭くて、リアルなパワーがあるところがブラナー版のおもしろさだった。


 それまで遊び呆けていたヘンリーが自身の王子としての義務感に目覚め、戦争に行き、その現実を目の当たりにすることで大人になっていく。オリヴィエは30代後半でヘンリー役を演じたが、ブラナーは20代後半で演じることで、青年の成長の物語として説得力があった。映画全体にも野心的な新人のパワーがあふれていて、特に戦闘シーンは迫力満点。


 この映画でアカデミー賞の監督賞と主演男優賞候補となり、一躍、“現代のオリヴィエ”の称号も獲得。その後も軽快なオールスター映画『から騒ぎ』(93)や、4時間に及ぶ超大作『ハムレット』(96)にも監督・主演。ハリウッドの新たなシェイクスピア・ブームの中心的存在となったが、2000年のミュージカル仕立ての『恋の骨折り損』が批評的にも興業的にも失敗。ブラナーも方向転換を迫られるようになった。


 ブラナーには“したたかな商業監督”の顔もあり、2010年代に入るとアメコミ物の『マイティ・ソー』(11)やディズニー作品『シンデレラ』(15)、アガサ・クリスティ原作の『オリエント急行殺人事件』(18)や『ナイル殺人事件』(22)など、題材が有名なものが監督作の中心となった。演劇畑の人なので、『シンデレラ』にしても、ポワロにしても、リメイクというより、「新たな読み直し」と考えているのではないだろうか? 舞台作品は、シェイクスピアにしろチェーホフにしろ、スタンダード作品が異なる演出家で上演されている。そういう意味ではリメイクに対して抵抗がないのだろう。


『ベルファスト』予告


 彼の監督作としてのキャリアを振り返ると、原作物が多くオリジナル作品は意外に少ない。そんな中、『ベルファスト』はブラナーの久しぶりのオリジナル脚本映画。自身の幼年期の体験がもとになっていて「すごくパーソナルな作品」と彼自身も呼んでいる。21年のトロント映画祭では観客賞を獲得し、アカデミー賞でも作品賞・脚本賞など7部門でノミネートされた。ブラナーにとっては久しぶりに自身の思いを込めた作品で、彼のベスト・フィルムの1本となっている。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ベルファスト
  4. 『ベルファスト』自伝をフィクションとして再構築した、ケネス・ブラナーのパーソナルな作品