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『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ジェーン・カンピオン、そして2020年代ならではの新たな西部劇

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『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ジェーン・カンピオン、そして2020年代ならではの新たな西部劇

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


Index


ジェーン・カンピオン監督が12年ぶりに手がけた野心作



 90年代に『ピアノ・レッスン』(93)の斬新な表現力で映画界に衝撃を与えたジェーン・カンピオン監督が、12年ぶりに映画の世界に戻ってきた。カンピオンはニュージーランド出身だが、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(21)ではアメリカの西部劇に挑戦。これまで女性を主人公にすることが多かった彼女が、初めてマッチョな男性の内面に切り込んだ野心作となっている。21年後半から22年前半の海外の映画賞レースでは、作品賞・監督賞や演技賞などの部門で最前線にいる作品としても注目されている。


 原作はアメリカの作家、トーマス・サヴェージが67年に発表した幻の傑作小説(邦訳は2種類。角川文庫刊、波多野理彩子訳。早川書房刊、山中朝晶訳)。1925年のアメリカのモンタナの牧場が舞台で、終始、謎めいていて、着地点が見えない。カンピオンが脚色した映画版も、原作同様、不穏な緊張感が漂う。西部劇といっても銃撃戦などなく、主要人物4人の心理ミステリーとなっている。


『パワー・オブ・ザ・ドッグ』予告


 主人公は裕福な牧場を経営しているフィル(ベネディクト・カンバーバッチ)で、頭が切れる彼は、絶対的なカリスマ性を持ち、どこか人をからかうような話し方をする。映画ではそんなフィルと彼が抑圧している3人の人物との葛藤が描かれる。最初に登場するのは弟ジョージ(ジェシー・プレモンズ)との関係。彼は兄のようなキレ者ではなく、おっとりした性格で、兄はそんな彼のことを今も半人前と考えている。ただ、ジーンズ姿で馬に乗り、外で水浴びをする野生児の兄と異なり、ジョージはスーツ姿で車に乗り、家のバスタブを使う。時代の変化も受け入れることもできる人物だ。そして、未亡人ローズ(キルスティン・ダンスト)との結婚をきっかけに、兄の支配下から抜け出そうとする。


 次にフィルが抑圧する人物は、弟の妻となったローズで、医師だった夫の死後、食堂を経営していた彼女をフィルは嫌う。彼とのバトルに疲れた彼女はアルコールに救いを求めるようになる(小説では、前夫との生活も詳細に語られているが、映画版ではバサリと切られている)。最後にフィルと向き合うのが、ローズの息子、ピーター(コディ・スミット=マクフィー)で、医大生の彼は父親同様、ドクターの道をめざしている。最初はフィルに“ミス・ナンシー(女みたいな男)”と呼ばれて嘲笑されるが、やがてふたりは不思議な関係を作り上げる。



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 監督のカンピオンは、出版の仕事をしていた親族を通じてサヴェージの原作本を知り、その魅力にとりつかれたという。“The Guardian”に掲載された記事で、監督はこう語る――「この映画を撮る前に実は引退も考えていた。でも、本が気に入って、ずうっと本のことを考えた。誰が映画化権を持っているのか調べ始め、自分が映画化に踏み出していることに気づいた。撮らなくてはいけない、と思い始めた」(21年11月7日号)


 前述のようにこれまで女性を主人公にしてきた監督にとって、初めて男性を主役にした映画となったが、“The Guardian”のインタビューではこんな話もしている――「この映画を手掛けることが最初は怖かった。映画化を考えた時から、これまでとは違う作品になると思っていたから」


 完成した作品は何度も繰り返してみたくなる魅惑的な毒を持った作品になっている。タイトルは旧約聖書の詩篇の中の一説、「わたしの魂をつるぎから、わたしの命を犬の力から救い出してください」から取られていて、最後は“犬の力”の意味について考えさせる結末が訪れる。





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