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『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』アカデミー賞主演男優賞と撮影賞へとつながる、ポール・トーマス・アンダーソンがフィルム撮影にこだわる理由
2019.12.02
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』あらすじ
20世紀初頭のアメリカ西部。鉱山労働者のプレインビューは、幼い息子とともに油田を探していた。あるときプレインビューは、サンデー牧場に石油が出る兆候があるという情報を得る。息子とともに石油採掘事業に乗り出したプレインビューは、異様なまでの欲望で富と権力を手にしていく。
Index
デジタル撮影vs.フィルム撮影
現代の映画監督たちを特徴別に分ける場合、一つの方法として、撮影時のカメラをどうするかという視点がある。デジタルカメラしか使わない、デジタルもフィルムも使う、フィルムしか使わない。大きく分けるとその3つだ。
興味深いのは、ハリウッドでは、著名で優れた監督ほど傾向が偏っているという事実だ。ジェームズ・キャメロンやデヴィッド・フィンチャーなど、舞台が現代や未来、架空の世界だろうが、イメージした画を作るためにデジタル/CGをフル活用する方法。おのずとワークフローは決まり、デジタルカメラが最適となる。グリーンバックという合成用の背景の前で演じることが多くなる俳優たちにも、想像力が必要とされる。キャメロンもフィンチャーもデジタルテクノロジーの進化に興味が強く、機材の開発にも積極的に協力する。
『アバター』特別映像
いっぽう、タランティーノ、クリストファー・ノーランなど、フィルムカメラしか使わない監督たちがいる。タランティーノに至っては、プロジェクター上映に反対し、フィルム上映のための映画館維持に本気で取り組んでいる。彼らの目的は「人間にとっての自然な感じ方」の追求である。
撮影現場に本物の場所や美術があることは俳優から自然な演技を引き出しやすい。優れた演技+自然な光と影+フィルムが持つ莫大な解像度+最適なレンズと露光、の組み合わせこそが、最高の鑑賞体験を提供できると信じ、愚直に追求しているのだ。ただし現代ではフィルム環境の追求はコストが高くなるので、ノーランは自らプロデューサーとして資金集めもしている。世界で最も成功している自主映画監督はノーランだ、という人もいるぐらいである。
『ダンケルク』特別映像
そして、後者に属し、自ら製作資金調達まで担当してフィルムの制作環境にこだわり、優れた作品を作り続けている鬼才がもう一人いる。ポール・トーマス・アンダーソンだ。