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『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ジェーン・カンピオン、そして2020年代ならではの新たな西部劇

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『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ジェーン・カンピオン、そして2020年代ならではの新たな西部劇

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犯罪ミステリーとしてのおもしろさ



 今回の映画はカンピオンの12年ぶりの映画だが、その間に彼女はBBCテレビのミステリー・シリーズ『トップ・オブ・ザ・レイク~消えた少女』(13)、続編の『トップ・オブ・ザ・レイク~チャイナ・ガール』(17)も手がけている。すべてのエピソードを監督しているわけではないが、全体のコンセプトは彼女が担当。こうしたテレビ作品を経ることで、今回の映画も犯罪ミステリーとしても楽しめる作品になっている。


 振り返ってみると、ニューヨークを舞台にした監督作『イン・ザ・カット』(03)も、ミステリータッチで、シリアルキラーを題材にしていた。メグ・ライアン扮する大学の講師と事件を追う刑事(マーク・ラファロ)との性的な関係も盛り込み、幻想的で悪夢のような作風を作り上げていた。成功作ではなかったが、犯罪とエロティックな雰囲気を合体させるという試みは、その後の作品にもつながっている。


 『トップ・オブ・ザ・レイク』シリーズでは、少女の妊娠、レイプ、売春、不倫、女同士の恋愛、など女性の性をめぐる題材を扱い、そこに犯罪映画の要素を組み込むことで、スリリングな展開となっていた。ミステリーといっても、プロットやディテールの緻密さにこだわるのではなく、あくまでもエモーションを重視し、人間の深層心理に踏み込むことで謎をふくらませていく。



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 今回の映画のトーマス・サヴェージの原作は、後半、犯罪小説として衝撃的な構成が取られ、特に最後に用意された驚愕の一行で、それまでの物語をがらりと変える展開となっていた(映画を見る前に本を読み、その予期せぬオチに戦慄が走った)。


 映画は小説とは異なるメディアなので、小説と同じ手法は取れないが、映画版も毒をしたたらせた幕切れが訪れる。そして、犯罪映画としてのプロセスも確認したくて、また、最初から見直したくな(たとえば野生児のフィルが、作業の時に手袋をしない、という設定が、後半の展開の重要な伏線となっている)。


 アリ・ウェグナーの撮影も素晴らしく、わざと意味を持たせるようなショットが多く、それが後になって効いてくる。「アリは本当に素晴らしい視点を持ったカメラマンだから起用した」(Zoomer Com.21年12月1日号)とカンピオンは答えていたが、この女性カメラマンの陰影のある映像が謎めいた物語全体の雰囲気をうまく作っている。映画の舞台はモンタナだが、実際の撮影はニュージーランドで行われたという。





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