『ピアノ・レッスン』あらすじ
19世紀の半ば、初めて会う相手との結婚のために、スコットランドからニュージーランドへ渡ったエイダと、娘のフロラ。その過酷な船旅に伴われたのは、1台のピアノ。自ら口をきかないと、6歳で決意したエイダにとって、ピアノこそが自身の思いを伝える道具だった……。
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アカデミー賞ノミネート8部門のうち7部門が女性
2021年の第93回アカデミー賞で、『ノマドランド』のクロエ・ジャオが女性として2人目の監督賞を受賞。93回の歴史で、ようやく2人目という事実に愕然とするが、歴史に風穴を開けた1人目の女性監督は、第82回、『ハート・ロッカー』(08)のキャスリン・ビグローだった。しかしそれ以前に、受賞に値する人がいた。ジェーン・カンピオンである。
アカデミー賞の歴史では、監督賞ノミネートとして2人目の女性(1人目は1976年度、第49回の『セブン・ビューティーズ』のリナ・ウェルトミューラー)。しかもカンピオンは『ピアノ・レッスン』(93)で、カンヌ国際映画祭のパルム・ドールを女性監督として初めて受賞していた。このままオスカーも……という可能性もあったのだが、同じ年に『シンドラーのリスト』(93)という強力な作品が現れてしまった。それまでエポックとなる作品を送り出し続けながら、オスカー受賞とは無縁だったスティーヴン・スピルバーグにとって、満を持しての力作であり、ユダヤ人迫害の歴史というハリウッドが好む内容だっただけに、カンピオンの女性監督初のオスカーの夢は絶たれた。
『ピアノ・レッスン』予告
作品賞や監督賞は逃したものの、注目すべきは、『ピアノ・レッスン』がアカデミー賞にノミネートされた8部門のうち、7部門の対象者が女性だったこと。これは、現在に至るアカデミー賞の歴史を振り返っても革新的である。男性のノミニーは、撮影賞のスチュアート・ドライバーグのみ。1990年代にジェンダーの不平等を覆していた。
19世紀の半ば、初めて会う相手との結婚のために、スコットランドからニュージーランドへ渡ったエイダと、娘のフロラ。その過酷な船旅に伴われたのは、1台のピアノ。自ら口をきかないと、6歳で決意したエイダにとって、ピアノこそが自身の思いを伝える道具だった……。
『ピアノ・レッスン』は、自分を迎えた夫がいるにもかかわらず、原住民と同化した男、ベインズに惹かれていくエイダの、激しいまでの愛の物語が展開する。邦題どおり(原題は『The Piano』)、エイダからベインズへのピアノのレッスンが、愛と欲望を深めていくわけで、この作品をマイケル・ナイマンの音楽とともに記憶している人も多いだろう。当初、オファーされた別の作曲者が降板した結果、ナイマンに仕事が回ってきたが、それまでピーター・グリーナウェイ、パトリス・ルコント作品で映画音楽を手がけてきた彼を、『ピアノ・レッスン』が世界的なメジャー作曲家に押し上げたと言っていい。『ピアノ・レッスン』のナイマンの曲は、その後、日本でもトヨタのCMなどに使われている。