衛星パンドラの世界を丸ごとコンピュータ・グラフィックスで描き出すという壮大なプロジェクトとなった『アバター』(09)。ジェームズ・キャメロン監督と製作陣にとって撮影技術面での大きな挑戦は、機動性の高い3Dカメラシステムを開発し、撮影に導入すること。そして、身体の動きをコンピュータに取り込んでCGキャラクターを造形するモーション・キャプチャーをさらに発展させ、俳優の表情や目の動きまでもCGに置き換えることを可能にするシステムを実用化することだった。
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3D撮影の新しいカメラシステム
キャメロンにとって初めての3D撮影は、「ユニバーサル・スタジオ」テーマパークのアトラクションとして製作した『ターミネーター2:3-D』(96)だった。当時の3D撮影用装置は、通常サイズのカメラ2台を搭載した比較的単純な仕組みで、大きさは「冷蔵庫サイズ」、重量は200kgもあったため機動性の面で難があり、技術的な課題も多かった。
その後キャメロンは映像技術者のヴィンス・ペースと共同で、従来のものよりも小型軽量、より高性能で静音性にも優れた「フュージョン・カメラ・システム」(当初は「リアリティー・カメラ・システム」と呼ばれた)を開発する。1つのユニットに搭載された2台のカメラは、サーボ機構によりレンズ間の距離を調整でき、これによって立体感や奥行き感を柔軟に変更することが可能になった。
キャメロンは、海洋ドキュメンタリーの『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』(03)と『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』(05)でこのフュージョン・システムを使用。そして『アバター』で初めて、自身の劇映画でこのシステムを本格的に活用することになる。
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『アバター』で使われたフュージョン・システムのカメラ部分は、ソニーの映画撮影用デジタルビデオカメラのブランドである「CineAlta(シネアルタ)」の当時最新モデル「F35」にグレードアップされた。また、撮影現場から5メートルほどの小屋にモニター環境が整備され、キャメロンやスタッフ、それに俳優たちが3Dメガネをかけて、撮影したばかりの映像を3Dで視聴できるようになっていた。そうして、3D映像の見え方を細かくチェックしながら、演出や演技に微調整を加えていった。