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集大成にして新境地。ジェームズ・キャメロン『アバター』がインスパイアされた諸要素を探る
『アバター』あらすじ
22世紀、人類は地球から遠く離れたパンドラで<アバター計画>に着手していた。この星の先住民ナヴィと人間のDNAを組み合わせた肉体<アバター>を創ることで、有毒な大気の問題をクリアし、莫大な利益をもたらす鉱物を採掘しようというのだ。この計画に参加した元兵士ジェイクは車椅子の身だったが、<アバター>を得て体の自由を取り戻す。パンドラの地に降り立ち、ナヴィの族長の娘ネイティリと恋に落ちるジェイク。しかし彼はパンドラの生命を脅かす任務に疑問を抱き、この星の運命を決する選択を強いられていく……。
ジェームズ・キャメロンが監督・脚本・共同製作を務めた『アバター』(09)。太陽系外の衛星パンドラの景観と自然環境、そして先住民族であるナヴィを含む生態系を丸ごとコンピュータ・グラフィックスで“創造”するという前例のない巨大プロジェクトで、製作が本格化したのは2005年のこと。ただし、企画の出発点は1994年と意外に早く、キャメロンはこの時80ページの草稿を書いていた。
キャメロンは当初、少年時代から親しんだSF小説や冒険小説の中から、自分の好きな要素を集めた独自のSFアドベンチャーを構想した。ほかにも、キャメロン本人が影響を認めたもの、映画通から類似性が指摘された過去の作品、意図的にちりばめられた宗教的要素など、『アバター』の創造の源を探ることは、それ自体が刺激に満ちた旅のようでもある。
Index
衛星パンドラのビジュアルはどこから
幼い頃からジャック・クストーの海洋ドキュメンタリーに夢中だったキャメロンは、高校時代から、頭に浮かんださまざまなアイデアを短編小説にしたり、スケッチに書き留めたりしていた。70年代には、空中を浮遊するクラゲ、生物発光する森や川、「エアー・シャーク」と名付けた空飛ぶサメ(これがのちにエイのような姿に変わり、さらにコウモリに近いデザインの「バンシー」になる)などを描いたという。
『アバター』(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
ドキュメンタリー作品『エイリアンズ・オブ・ザディープ』(05)の撮影で、キャメロンは自ら探査艇に乗り込んで深海底の熱水孔を調査したが、このとき実際に目にした生物発光をする植物相や動物相も、『アバター』に登場する動植物のデザインに影響を与えることになる。
パンドラの空中に浮かぶ山に代表されるユニークな景観は、キャメロンが中国南部にある黄山などの景勝地にインスパイアされたと語っている。また、ロックバンド「イエス」のアルバムジャケットのイラストで有名なロジャー・ディーンの作品にも、空中に浮かぶ島や巨大な岩のアーチを描いた絵があり、これらの影響を指摘する声も多い(ディーンは著作権侵害で提訴したが2014年敗訴)。
キャメロン自身は訴えられる前の2010年のインタビューで、イエスのアルバムに描かれた空に浮かぶ山にインスピレーションを得たかと聞かれ、「マリファナを吸っていた(若者の)頃、(ディーンの絵を)目にしていたかもね」と語っていた。
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パンドラの緑深い森は、アマゾンの熱帯雨林の景観にヒントを得ている。キャメロンが草稿を書いた1990年代、「熱帯雨林を乱開発から守れ」と訴える運動が米国を中心に盛り上がっていた。文明と科学技術への過信が危機を招く、というのはキャメロンがフィルモグラフィーで一貫して警鐘を鳴らしてきたテーマでもある。『アバター』を契機に熱心な環境保護論者になったキャメロンは、2010年に初めてアマゾンを訪れ、現地の部族とともに熱帯雨林の保護を訴えた。