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集大成にして新境地。ジェームズ・キャメロン『アバター』がインスパイアされた諸要素を探る
ちりばめられた宗教的要素
パンドラの魂の木に宿る神「エイワ」を崇めるナヴィの宗教儀式は、アフリカや新大陸の先住民族のそれを思わせるが、キャメロンはほかにも既存の宗教との関連を思わせる要素をちりばめている。
まず、ナヴィの青い肌色は、ヒンドゥー教のヴィシュヌ神の絵や像から取られたという。また、アバター(avatar)という言葉も元はサンスクリット語で「(ヴィシュヌ)神の化身」を表し、やがて一般化してゲーム内でのプレイヤーの「分身」などの意味にも使われるようになったものだ。
『アバター』(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
キャメロン作品では、主人公の“意外な味方”にキリスト教に関わる名前が与えられることが多い。『エイリアン2』におけるアンドロイドのビショップ(bishopは「司教」の意味)、『アビス』(89)におけるモンク少尉(monkは「修道士」)がこれに該当する。『アバター』のオーガスティン博士もはじめ、海兵隊のジェイクを見下したような態度を取るが、彼女の姓は聖アウグスティヌス(Saint Augustine)から取られている。
キャメロンが頭文字に並々ならぬこだわりを持っていることは『アリータ:バトル・エンジェル』の記事で紹介したが、英雄的な主人公や重要人物のイニシャルには「J」を与えることが多い。それは、キャメロン自身のイニシャルがイエス・キリストと同じ「J.C.」であることと無関係ではない気がする。『ターミネーター』(84)と『ターミネーター2』(91)で機械に支配された未来の人類を救うのがずばりJ.C.のジョン・コナーだし、『タイタニック』(97)でヒロインを救う主人公の名もジャック。そして『アバター』のジェイクも、ナヴィとパンドラを救う戦いに身を投じる。
『アバター』(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
キャメロンがジェイクをキリストに重ねていることは、ラスト近くのある場面でネイティリがジェイクを抱きかかえる構図が、ミケランジェロの彫刻『ピエタ』を再現していることからも明らかだ。「ピエタ」は磔にされたキリストの亡骸を抱く聖母マリアをモチーフにした芸術作品を指すが、新約聖書にキリストが処刑された後に復活することが記されていることを思えば、『アバター』のラストとの関連性も一層はっきりする。
キャメロンはこうして、地球上に実在する生物や景観、過去の出来事や物語、自作を含むSFカルチャー、そして多くの宗教的要素を織り交ぜて、まったくの未知の環境でありながらもどこか懐かしく親しみを覚える『アバター』の世界を創造した。次回の記事では、同作におけるCGやモーションキャプチャー、3Dといった映像面での挑戦を中心に取り上げたい。
【参考】
1.『ジェームズ・キャメロン 世界の終わりから未来を見つめる男』レベッカ・キーガン著 吉田俊太郎・訳 フィルムアート社
2.『The ART of AVATAR ジェームズ・キャメロン『アバター』の世界』リサ・フィッツパトリック著 菊池由美訳 小学館集英社プロダクション
フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。
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