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『エルヴィス』何度も描かれてきたアイコン。バズ・ラーマンが自らの嗜好でその深部に迫る

(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

『エルヴィス』何度も描かれてきたアイコン。バズ・ラーマンが自らの嗜好でその深部に迫る

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エルヴィスを支えたマネージャーの強い愛



 このように数々の映画やカルチャーで蓄積されてきたエルヴィス・プレスリーのイメージを、集大成としてまとめたのが、2022年の『エルヴィス』だろう。オースティン・バトラーを主演に、バズ・ラーマンが監督したこの作品は、もちろんエルヴィスの音楽へのめざめから始まり、その後の劇的を究める人生を、ターニングポイントとなったパフォーマンスとともに展開していくのだが、作品全体を通してディープに描かれるのは、エルヴィスと、彼のマネージャーを務めたトム・パーカー大佐の関係だ。大佐を演じるのが、『フォレスト・ガンプ』のトム・ハンクスというのも、過去の映画とのつながりを感じさせる。


 エルヴィスの才能をイチ早く見出し、スターへと成長させた恩人ながら、自分勝手な契約、収入に関する疑惑などさまざまな確執があったとされる大佐。しかし全編から伝わってくるのは、彼からエルヴィスへの強烈な愛情だ。初めてエルヴィスのステージを目の当たりにした瞬間、大佐は自分が探し求めていた何かをついに見つけた感慨で、文字どおり何かに取り憑かれたような表情をみせる。その後もエルヴィスが死ぬまで、商品価値として利用した側面はあるにせよ、最後まで変わらぬ愛情を保っていたかのように『エルヴィス』では描かれる。奇跡のステージをやりとげた後、当人のエルヴィス以上に、大佐の恍惚とした表情がスクリーンを支配していた。



『エルヴィス』(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved


 こうした関係は、いかにもバズ・ラーマン監督らしい。彼の作品といえば、妻である美術監督のキャサリン・マーティンとともに手がける、過剰なまでの装飾に溢れた映像美だが、もうひとつの特徴は男たちの愛である。『ロミオ+ジュリエット』(96)では、ロミオの友人、マーキューシオを仮装パーティでドラァグクイーンの姿で踊らせ、彼が殺されるシーンなどでロミオとの強靭な絆を感じさせ、それは明らかに友情を超えた愛情だった。『華麗なるギャツビー』(13)では、主人公ギャツビーの親友であるニックが作品の語り部を務めるが、彼からのギャツビーへの憧れは尋常ではなく、ほぼ一心同体のような愛さえも感じさせる。これは原作や、1974年の映画にも漂っていなくはないが、バズ・ラーマンが強調していたのは明らかだ。こうしたプラトニックながら濃密な愛情が、エルヴィスと大佐の関係にも託されている。


監督の過去作品のエッセンスが凝縮



 もちろん、エルヴィス・プレスリーのトレードマークともいえる、キラキラの装飾をほどこしたジャンプ・スーツが、『ダンシング・ヒーロー』(92)で社交ダンスの頂点をめざす主人公の衣装を思い出させたり、自在かつテンポのよい編集テクニックで盛り上がるエルヴィスのステージが、『ムーラン・ルージュ』(01)のミュージカル場面を彷彿とさせたりと、ラーマンの過去の嗜好が『エルヴィス』には凝縮されている。しかし芯の部分で、カリスマそのものより、彼を“愛した”者の視線に集中し、そこに監督としての自身が重なるからこそ、なぜエルヴィス・プレスリーがあの時代、多くの人を魅了したのかも伝わってくる。


 「Elvis the Pelvis(骨盤のエルヴィス)」と揶揄されたように、単にセクシーな腰の動きだけで人々を興奮させたのではない。これまでエルヴィスが登場した映画とは違い、深部でカリスマの実像に迫ろうとしたバズ・ラーマンの意図が、この作品では、彼を最も愛した大佐と一体化し、全編に熱いまでに満ちることになった。



文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。




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『エルヴィス』

7月1日(金)ROADSHOW

配給:ワーナー・ブラザース映画

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