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『オリエント急行殺人事件』アガサ・クリスティ原作映画の真打的作品 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『オリエント急行殺人事件』アガサ・クリスティ原作映画の真打的作品 ※注!ネタバレ含みます。

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シドニー・ルメットの戦略と計算



 『オリエント急行殺人事件』におけるシドニー・ルメットの戦略と計算は、見事としか言いようがない。彼は、たくさんの容疑者が次々に登場する映画なのだから、有名俳優を並べた「オールスターキャスト映画」にしようと考えた。見慣れた顔がいれば、観客は登場人物をすぐ認識できると判断したのである。


 ルメットはまず、「大物スターとの出演を取り付ければ、他の俳優たちもこぞって参加してくれるだろう」と踏んで、『』(65)、『ショーン・コネリー/盗聴作戦』(71)、『怒りの刑事』(72)でタッグを組んだショーン・コネリーと出演契約を交わす。その目論見は見事的中し、続々と名優たちが出演契約書にサイン。アルバート・フィニー、イングリッド・バーグマン、リチャード・ウィドマーク、アンソニー・パーキンス、ジョン・ギールグッド、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、ウェンディ・ヒラー、レイチェル・ロバーツ、ローレン・バコール、マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビセット、マーティン・バルサム…。錚々たる顔ぶれがオリエント急行に乗車した。


 特にイングリッド・バーグマンは、その華麗なキャリアからは想像できないくらいに地味な宣教師グレタ・オルソン役を演じて、見事アカデミー助演女優賞を受賞。当初はナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人役(最終的にウェンディ・ヒラーがこの役を演じた)が想定されていたが、周囲の反対を押し切って彼女は宣教師役を指名。バーグマンのキャリア・ハイとも呼べる超絶アクトに応えるべく、シドニー・ルメットは彼女への尋問シーンをおよそ5分間におよぶ1シーン・1カットで撮影した。



『オリエント急行殺人事件』(c)Photofest / Getty Images


 シドニー・ルメットもう一つの戦略は、ズバリ“旅情”感。イスタンブールから一路ロンドンを目指すオリエント急行を舞台にすることで、異国情緒を堪能できる観光映画としての側面を強調。観客は、古き良き時代の鉄道旅行を楽しむことができるのだ。シドニー・ルメットのコメントを引用してみよう。


 「『オリエント急行殺人事件』の基本的な魅力は、ストーリーの面白さもさることながら、ノスタルジックであることです。あの列車には誰も乗ったことがないのに、乗ったことがあると思ってしまっている。それは、私たちができる限り華やかなものにしたからなのです」(*3)


 その“旅情”感に彩りを添えるように、リチャード・ロドニー・ベネットによるスコアは、およそ殺人事件には似つかわしくないワルツ。『市民ケーン』(41)や『サイコ』(60)で知られる名作曲家バーナード・ハーマンは、「彼らは破滅へと向かって列車の旅をしている。その事実を強調すべきだ」と非難したが、ベネットはシドニー・ルメットの意を汲んで、「豪華できらびやかで贅沢な時代を音楽に反映させる」ことを選択する。


 映画のラストで12人の乗客たちは「無罪」を勝ち取り、ハリエット・ベリンダ・ハッバード夫人(ローレン・バコール)とエレナ・アンドレニイ伯爵夫人(ジャクリーン・ビセット)の前で一人ずつ祝杯をあげる。これはもはや、舞台のカーテンコールだろう。オールスター映画にふさわしく、『オリエント急行殺人事件』はエレガントに、そしてゴージャスに、幕を下ろすのだ。



*1 晶文社「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」

*2 the Guardian

*3 DGA 



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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