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『オリエント急行殺人事件』アガサ・クリスティ原作映画の真打的作品 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『オリエント急行殺人事件』アガサ・クリスティ原作映画の真打的作品 ※注!ネタバレ含みます。

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※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『オリエント急行殺人事件』あらすじ

1935年。大陸横断国際列車オリエント急行はイスタンブールからパリ経由でカレーに向かっていた。列車には様々な乗客が乗っており、その中には名探偵エルキュール・ポワロの姿もあった。二日目の夜、雪で線路が埋まり列車が立往生してしまう。そんな中、ポワロの隣の客室にいたアメリカ人富豪ラチェットの遺体が発見される。ラチェットは身体中を刃物で刺されていた。事件の究明に乗り出したポワロは、車掌と一等車の乗客十二人への尋問を開始する…。


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アガサ・クリスティもお墨付きの完成度



 「わたしにとっては、ミステリーがサスペンスであることはめったにない。たとえば、謎解きにはサスペンスなどまったくない。一種の知的なパズル・ゲームにすぎない。謎解きはある種の好奇心を強く誘発するが、そこにはエモーションが欠けている。しかるに、エモーションこそサスペンスの基本的な要素だ」(*1)


 “サスペンスの神様”アルフレッド・ヒッチコックは、名探偵がトリックを解き明かすような推理モノを「サスペンスではない」(映画的ではない)と一刀両断し、否定的な立場をとっていた。そもそもサスペンスという言葉は、宙吊りを意味するsuspend(サスペンド)に由来している。「精神が宙ぶらりんな状態」=「不安が持続している状態」こそがサスペンスの本質。単なる謎解きでは、観客のエモーションを揺さぶることはできん!と巨匠はおっしゃっているのである。


 だがヒッチコックの信条とは裏腹に、映画史において推理小説は常に映像化される素材であり続けてきた。特に“ミステリーの女王”アガサ・クリスティ作品は、超人気コンテンツ。古くはルネ・クレール監督の『そして誰もいなくなった』(45)やビリー・ワイルダー監督の『情婦』(57)、そして最近ではケネス・ブラナーが主演・監督を務めた『ナイル殺人事件』(22)など、その枚挙にいとまがない。


 数あるアガサ・クリスティ原作映画の中でも、真打的作品と言えるのは『オリエント急行殺人事件』(74)だろう。スター俳優が大挙出演して、アメリカ国内で3,500万ドルの興行収入を挙げる大ヒット。第47回アカデミー賞では、主演男優賞、助演女優賞、脚色賞、撮影賞、作曲賞、衣装デザイン賞の6部門でノミネートされ、イングリッド・バーグマンが助演女優賞を受賞した。


『オリエント急行殺人事件』予告


 今や名作との誉れ高い『オリエント急行殺人事件』だが、アガサ・クリスティはこの作品の映画化に及び腰だった。プロデューサーのリチャード・グッドウィンはこう証言している。


 「アガサ・クリスティに権利を譲るよう説得するのは大変でした。彼女は映画版『ABC殺人事件』を嫌っていましたから」(*2)


 人気コンテンツゆえに彼女の作品は手当たり次第に映画化され、中には粗雑な乱造品として映画館でかけられることもあった。それが彼女には我慢ならなかったのだろう。だが『オリエント急行殺人事件』は、名匠シドニー・ルメットの手によって丹念に磨き込まれ、微に入り細を穿つ逸品に。試写会に出席したアガサ・クリスティは、その出来に満足の意を示したという(ただし、エルキュール・ポアロ演じるアルバート・フィニーの奇妙な口髭には感心しなかったらしい)。


 そして映画公開の14ヶ月後に、アガサ・クリスティは85歳で逝去。自作の映画化で最もお気に入りの作品は、『情婦』と並んで『オリエント急行殺人事件』だったと言われている。





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