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『オリエント急行殺人事件』アガサ・クリスティ原作映画の真打的作品 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『オリエント急行殺人事件』アガサ・クリスティ原作映画の真打的作品 ※注!ネタバレ含みます。

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列車の中で繰り広げられる法廷劇



 映画は、マフィアの一味がアームストロング邸に押し入り、赤ん坊のデイジーを誘拐するところから始まる。アームストロング大佐は誘拐犯に身代金を支払うが、無残にも愛娘は死体となって発見。ショックのあまり身重の妻は流産のうえ生命を落とし、犯人の一味と疑われたメイドは自殺。悲嘆に暮れた大佐も自ら生命を絶った(このプロットは、著名な飛行家チャールズ・A・リンドバーグの子供が誘拐された実際の事件から着想を得ている)。


 アームストロング家にゆかりのある12人の面々は、国外逃亡した真犯人カセッティことラチェット(リチャード・ウィドマーク)に正義の鉄槌を下すべく、オリエント急行での殺人計画を練る。だが彼らにとってこれは単なる人殺しではない。あくまで、民主主義的な手続きによる刑執行だ。アーバスノット大佐(ショーン・コネリー)は、ポアロにラチェットの極悪非道ぶりを聞かされてこう返答している。


 「ならば当然の報いだ。裁かれる日も近かっただろうが。12人の陪審員の手で」


『オリエント急行殺人事件』(c)Photofest / Getty Images


 この発言を聞いて筆者が夢想するのは、ヘンリー・フォンダ主演の映画『十二人の怒れる男』(57)。人種も職業も年齢も異なる12人の陪審員たちが、真実を求めて討論を重ねていく、法廷ドラマの傑作だ。とはいっても法廷が登場するのは最初の数分間だけで、メインの舞台は薄暗く狭い陪審員室。閉ざされた密室空間で、殺人事件の真相が解き明かされていく。


 『オリエント急行殺人事件』もまた、列車という密室空間で繰り広げられる「法廷が描かれない法廷劇」といえるだろう。乗客たちは12人の陪審員となってラチェットに「有罪」を宣告し、その是非をポアロによって審判される。そして『十二人の怒れる男』の演出を務めたのは、『オリエント急行殺人事件』の監督シドニー・ルメットその人。彼がこのプロジェクトに起用されたのは、当然のチョイスだったのである。





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