2022.09.15
暴力と苦しみの果てに
主演のエイドリアン・ブロディは、過去の罪が染み付いた男、その名も“クリーン”を演じている。彼の仕事はゴミ収集員だ。早朝の収集ルートを巡回したあと、廃品置き場に捨てられているジャンク品を回収し、それを修理する日々。地元の質屋(RZAが店主を演じる)で売り、生計を立てているようだ。彼の愛車、1980年代の年季が入ったビュイック・リーガルも、ほかのガラクタと同じように修理したものだろうか。
彼の過去について作中では明示されないが、頻繁に繰り返される記憶のフラッシュバックから、彼が暴力の世界を捨ててきたこと、そして、その過去が彼に迫ろうとしていることが暗示される。近所に住んでいる少女ディアンダ(チャンドラー・アリ・デュポン)の姿に、彼は失った娘を思い出しながら、地域社会への奉仕活動を贖罪として静かな生活を試みている。ディアンダにランチを届けたり、町の廃屋の落書きを消したりして、良き隣人を演じてみせるのだ。
『クリーン ある殺し屋の献身』© 2018 A Clean Picture, LLC All Rights Reserved.
登場人物のある女性は、「救いの手など必要ない」と言い放つ。その言葉にクリーンは、「俺が救われたいんだ」と切り返す。つまり彼の奉仕活動は本当の善意から来るものではない。過去の暴力と苦しみから自分自身を解放するための贖罪。いわば利己的な行動なのである。
どんな場所にも悪人はいる。それはクリーンが住んでいる町にも同じことが言える。マイケル(グレン・フレシュラー)という男は、代々家業としてきた魚屋を隠れ蓑としながら、裏では違法薬物の取引を行う地元の犯罪王である。刑務所から出所したばかりの放蕩息子とは少し確執があるらしい。主人公の仕事と同様に、悪役もまた、殺人者らしからぬ仕事で正体を隠しているわけだ。
ある時、クリーンが善意で起こした事件がきっかけで、彼は再び暴力の世界へと足を踏み入れることになってしまう……。