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『クリーン ある殺し屋の献身』逃れようとする暴力の先にあるもの

© 2018 A Clean Picture, LLC All Rights Reserved.

『クリーン ある殺し屋の献身』逃れようとする暴力の先にあるもの

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『クリーン ある殺し屋の献身』あらすじ

大都会の闇を生きる清掃人「クリーン」。その正体は過去を捨てた凄腕の殺し屋。そんなクリーンには気になる存在があった。隣人の、ディアンダという少女だ。ある時、ディアンダは麻薬ギャングたちに目をつけられ誘拐されてしまう。ディアンダを救い出すため、クリーンはチンピラたちを半殺にするが、その中にギャングのボスであるマイケルの息子がいた。復讐のため、マイケルは組織を総動員してクリーンを追う。クリーンはたった1人で反撃を挑んでゆくが……。


Index


多才な俳優、エイドリアン・ブロディ



 ポール・ソレット監督の『クリーン ある殺し屋の献身(以下『クリーン』)』(21)は、『タクシードライバー』(76)のような陰鬱さを求めてやまない映画ファンにオススメしたい作品だ。


 監督のポール・ソレットは、2009年に初の長編映画『Grace(日本未公開)』(09)で斬新なホラーを打ち出し、それ以来、評価を高めてきた人物だ。『Grace』は、死産したはずの赤ちゃんが人間の血を求めて生き返る、という恐るべき怪異を描いたもの。世界中のフェスティバルで上映され、観客に大きな衝撃を与えた(日本未公開なのが本当に惜しまれる)。ソレットはホラー路線にとどまることもできたが、あえてドキュメンタリーの分野に舵を切ると、コロラド州で起きた巨大ブルドーザー暴走事件に迫る実録『Tread(日本未公開)』(19)で、そのクリエイティブな感性を発揮させている。


『クリーン ある殺し屋の献身』予告


 ソレット監督の最新作『クリーン』では、裏社会から身を退いた一人の“善良な悪人”の姿が描かれる。それは一見、キアヌ・リーブスの『ジョン・ウィック』(14)シリーズや名作『レオン』(94)からの借用に思える。しかし、ある種のジャンルの類型をなぞる展開を描きながらも、それら従来のアウトロー映画とは一風異なるムードで観客を魅了してくる。それはやはり主演を務めるオスカー俳優の存在に依るところが大きい。『戦場のピアニスト』(02)のエイドリアン・ブロディである。


 ブロディは『戦場のピアニスト』で実在の音楽家、シュピルマンを演じ、29歳にして史上最年少のアカデミー主演男優賞受賞者となった。一躍、スター街道を駆け上がったブロディだったが、その後の出演作では鳴かず飛ばずの評価が続き、しばらく不遇の時代を過ごすことになる。近年では、ウェス・アンダーソン監督映画の常連俳優として『ダージリン急行』(07)、『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)などに出演。俳優業のかたわら、画家や音楽家としての才能も開花させ、ようやく再評価の兆しを見せているところだ。


 『クリーン』ではブロディの骨太の演技もさることながら、脇を固めるグレン・フレシュラー(見応えある名脇役)の怪演も見事。彼らの一流の演技によって作り出される重苦しい雰囲気(もちろん良い意味で)は、スクリーンの隅々にリアリズムをもたらしている。



『クリーン ある殺し屋の献身』© 2018 A Clean Picture, LLC All Rights Reserved.


 ソレットとブロディは『キラー・ドッグ』(17)以来の再タッグだ。彼らは『キラー・ドッグ』での共作のあと、1970年代の映画文化、とりわけ『タクシードライバー』のような反骨心と、あの時代のバイオレンスさ、それらを芳香させる映画を構想し、それが『クリーン』として実を結んだ。今作におけるブロディの役目は多岐にわたり、彼は主演のほか、製作、脚本(ソレットと共同執筆)を兼任。ヒップホップ調の素晴らしいスコアも作曲するなど、ブロディの映画作りに対する情熱が爆発している作品でもある。





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