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『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』にみる「真実」と「虚構」で揺らぐモキュメンタリーの手法とは?
2018.05.04
演じる俳優が実在の人物のように語り出す
さらにもうひとつ注目すべきは、時を経た現在、主要人物が当時を振り返って証言するという演出である。こうした場合、実際にモデルになった人物が映像で出てくる作品は多いが、この『アイ,トーニャ』では、トーニャ役のマーゴット・ロビー、母親役のアリソン・ジャネイ、元夫役のセバスチャン・スタンが、年齢を重ねた老けメイクをほどこされ、画面に登場する。さらに元夫の友人の嘘つき男は、テレビのインタビューに答える「映像」として出て来るなど、なかなか手が込んでいる。 基本的にはフィクションの映像の中に、たまに当時のニュースキャスターの映像や、リレハンメル・オリンピックの実際の映像も挟み込まれるので、観客は一種のドキュメンタリーを観ているような感覚に陥っていく。
『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』Copyright © 2017 AI Film Entertainment LLC.
似たようなアプローチが、最近の日本映画にもあった。行定勲監督の『 リバーズ・エッジ』だ。主要キャラクターが、監督からインタビューを受ける映像が挿入され、劇中で起こった事件や当事者の心理などを補完する。あたかもそのキャラクターが実在して、当時を振り返っているかのように錯覚させる効果が生み出された。俳優が演じる作り物のキャラクターが、実際に存在しているのか……と感じさせるのだ。
この『アイ,トーニャ』や『リバーズ・エッジ』の演出は、「モキュメンタリー」のアプローチに近いと言える。モキュメンタリーとは、モック(mock=偽物、模造品)とドキュメンタリーを合わせた用語で、ドキュメンタリー風に作ったフィクションの作品。虚構の事件を、あたかも実際に起こったかのように表現するジャンルだ。ドキュメンタリーと見まがうような撮影方法に加え、虚構のインタビューやニュースを織りまぜ、観客に真実であるかのごとく伝える。「だます」というより、その名のとおり「偽物」を楽しませるという感覚だ。