2018.05.21
アメリカドラマの主流をなす「ストーリー・アーク」とは?
ルッソ兄弟の発言にある「ストーリー・アーク」とは、従来の映画や、1話のエピソードで物語が自己完結するドラマとは趣きを異にする。複数話にまたがってストーリーラインが敷かれ、登場キャラクターのそれぞれがエピソードを主導していくもので、テレビ業界由来の造語だ。
1950年代を草創期とするアメリカドラマも、かつてはその多くが1話完結型のスタイルだった。しかし80年代に入って変化が訪れる。先ごろ亡くなったテレビディレクターのスティーブン・ボチコが『ヒル・ストリート・ブルース』(81~87)という警察ドラマで、シーズンにわたり大小複数の事件が進行するストーリー構成を用いたのだ。当時これは「モジュラー(構成要素を組み合わせる)形式」あるいは「レイアー(層構造)ライティング」と呼ばれ、ストーリー・アークの類型としてドラマの様式を一新させたのである。
こうしたドラマスタイルの革命は、多チャンネル化やCS局の台頭などの要素と合わさり、アメリカドラマを大きく成長させていく。『 ツイン・ピークス』(90~91)そして『 ER緊急救命室』(94~09)『 24 -TWENTY FOUR-』(01~14)など、日本人にも周知される名作は、先の流れのなかで形成されたものだ。
このテレビドラマの興隆をうながしたストーリー・アークを、ルッソ兄弟はMCUに適合させ、映画の世界で独自の連続性を展開させていったのである。今にして思えばMCUの集合起点となった『 アベンジャーズ』(12)も、監督のジョス・ウェドンが『バフィー ~恋する十字架~』(97~03)などテレビの成功者であり、氏の起用の段階で、マーベルの先見性や方向を見定める明確性がうかがえるだろう。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』©Marvel Studios 2018 All rights reserved.
また他にもルッソ兄弟は、テレビのスタイルに倣う理由として「ハリウッド映画の頭打ち」を挙げている。その証拠に彼らは、ストーリー・アークの導入によるアメリカ映画の変革のみならず、自らロサンゼルスと北京を拠点とするスタートアップスタジオ「アンセム&ソング」を設立。中国映画の配給を担うUEP(ユナイテッド・エンターテインメント・パートナーズ)と提携し、新たなアジア市場において、映画の発展と可能性を見出そうと動いていたりもするのだ。
ルッソ兄弟のアプローチには、いずれもそのベースに「ハリウッド映画からの脱却」という思惑が見て取れるのである。