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『スペンサー ダイアナの決意』ダイアナに捧げるポートレート、エレガンスと反抗

Pablo Larrain

『スペンサー ダイアナの決意』ダイアナに捧げるポートレート、エレガンスと反抗

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ジャクリーン・ケネディとダイアナ・スペンサー



 『スペンサー ダイアナの決意』は、パブロ・ラライン監督がケネディ大統領夫人ジャクリーン・ケネディを描いた『ジャッキー/ファースト・レディ 最後の使命』(16)と多くの点で類似点がある。伝記映画でありながらアンチ伝記映画ともいえる創作姿勢だけでなく、世界的に有名な結婚を送った女性の外側と内側、メディアによって映像の記録として残されることへの意志や葛藤といった点で符合している。


 『ジャッキー/ファースト・レディ 最後の使命』で、ナタリー・ポートマンが演じるジャクリーンは、映画の冒頭で「人々にどう記憶されたいですか?」と記者に質問される。ジャクリーンは、ホワイトハウスの紹介映像でも自身をファースト・レディとして演出していた。そしてケネディ大統領の葬儀では、子供たちと手を繋いで歩く悲劇の未亡人という図を敢えてメディアに撮らせている。ジャクリーンの行動はメディアを使った自身のイメージのコントロールであることも確かだが、それ以上にファースト・レディとしての使命、情熱こそが彼女の行動原理になっていることが伝わってくる。



『スペンサー ダイアナの決意』Claire Mathon


 秀作ドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』(22)を撮ったエド・パーキンス監督のインタビューでも言及されていたように、メディアを前にするダイアナ妃のボディランゲージは表現力に富んでいる。『スペンサー ダイアナの決意』におけるダイアナ=クリステン・スチュワートは、首を少し下に傾けたまま視線をこちら側に向けるダイアナ妃の特徴をよく捉えている。そしてダイアナが決められた衣装を敢えて着ないシーンに、メディアという視線を介した彼女の反抗とSOSを読み取ることができる。ダイアナによる満身創痍な自身への演出に、ナタリー・ポートマン=ジャクリーンに向けられた記者からの質問を思い出さずにはいられない。「人々にどう記憶されたいですか?」。


 ジャクリーンの側にナンシー(グレタ・ガーウィグ)がいたように、ダイアナにも衣装係のマギー(サリー・ホーキンス)という心を許せる女性がいる。ナンシーもマギーも保護者のように付き添いながら、ヒロインの魂を響かせることに多大な貢献をしている。ダイアナが二人の息子たちに教えていたように、ここでは過去と現在が同じ時制としてある。未来は存在しない。サンドリンガム・ハウスに響くダイアナの魂は、処刑されたアン・ブーリン王妃の亡霊のように魂の破片をこの空間に浮遊させ続ける。ダイアナ=クリステン・スチュワートは、サンドリンガム・ハウスに王室の巨大な歴史を召喚する。


 オリヴィエ・アサイヤスの『パーソナル・ショッパー』(16)におけるクリステン・スチュワートの存在感に感銘を受けたパブロ・ララインは、ダイアナ役に彼女を起用した理由を次のように語っている。


「彼女がとても巨大な謎を運ぶことができることを教えてくれたのです」*2




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