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『彼女のいない部屋』彼女の旋律、まだ知らない懐かしさ

© 2021 - LES FILMS DU POISSON – GAUMONT – ARTE FRANCE CINEMA – LUPA FILM

『彼女のいない部屋』彼女の旋律、まだ知らない懐かしさ

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『彼女のいない部屋』あらすじ

家出した女の物語、のようである。


Index


ゲームの規則



 ベッドの上、裏返しに並べられた無数のポラロイド写真。無作為に二枚ずつ写真をめくっていくクラリス(ヴィッキー・クリープス)。まるで思い出の写真を使ったトランプゲームあるいはタロット占いのようでもある。めくった二枚の写真が全く同じ構図であると確かめたクラリスは、苛立ちを剥き出しにする。やり直す。何度でも。


 マチュー・アマルリックの映画には、どこか探偵映画、探偵ゲームのような趣きがある。『ウィンブルドン・スタジアム』(01)で、当時のパートナーだったジャンヌ・バリバールを主演に迎え、著作を発表することなくこの世を去った謎の作家の実像を探す旅に出たように。あるいはクロード・シャブロルのサスペンスとダグラス・サークのメロドラマが美しく融合されたようなミステリアスな犯罪劇『青の寝室』(14)のように。マチュー・アマルリックの映画には、白紙のキャンバスにリアルタイムで物語を素描していくような不思議なゲーム性がある。



『彼女のいない部屋』© 2021 - LES FILMS DU POISSON – GAUMONT – ARTE FRANCE CINEMA – LUPA FILM


 「家出した女の物語、のようである。」という一文以外に、公式のあらすじが伏せられている『彼女のいない部屋』(21)において、マチュー・アマルリックの映画が持つ探偵映画のような趣き、ゲーム性はこれまで以上に強くなっている。キャリアベストを更新したといえるヴィッキー・クリープスの演技。本作ではクラリスというヒロインによる一つ一つの身振りが、行き当たりばったりの連想ゲームのように物語を生み出していく。


 まるでこのゲームを楽しむようなクラリスの台詞。同年に発表された『ベルイマン島にて』(21)で、ヴィッキー・クリープスの演じるヒロインが映画作家だったように、本作のヒロインも物語を生み出していく人物だ。この映画の行き先は、すべて彼女が決める。そのことを示すような象徴的な台詞がある。クラリスは夫マルクの同僚に夫の居場所を聞き出そうとする。「マルクは?」。同僚は次のように答える。「君次第さ。君が決めて教えてくれ」。


 クラリスのゲーム=物語は、悲しみを基調にしている。そして、あらゆる悲しみに対して正気を保つために彼女は物語を紡いでいく。彼女は目を閉じ、物語を紡ぐ。ありえたかもしれない物語をラフなデッザンのように素描していく。過去の思い出をシャッフルして未来を作り直していく。正気を保つために。やり直す。何度でも。





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