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『スペンサー ダイアナの決意』ダイアナに捧げるポートレート、エレガンスと反抗

Pablo Larrain

『スペンサー ダイアナの決意』ダイアナに捧げるポートレート、エレガンスと反抗

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エレガントに壊れていく



 王室一家のアウトサイダーとしてのダイアナ。この役を演じるのにクリステン・スチュワートほどふさわしい俳優もまたいない。クリステン・スチュワートには生来の反体制的なエッジがある。『スペンサー ダイアナの決意』は伝記映画でありながら、三日間のクリスマスを描いた「ダイアナのポートレート映画」と呼ぶ方がふさわしい。本作にはクリステン・スチュワートという稀代の俳優の内側から引き出されたエレガントな反抗の機微がドキュメントされている。ダイアナはエレガントさを保ったまま、壊れていく。


 パブロ・ララインが長らく追いかけているイメージだと語っている、『死刑台のエレベーター』(58)におけるパリの舗道を歩くジャンヌ・モローのイメージ。焦燥した表情で、しかしエレガントさを失わずに歩くヒロイン。本作においてこの伝説的なヒロインのイメージは、ダイアナの全身をフルショットで捉えるカメラで追求されている。生まれ育った家の方に向かって霧の風景を駆けていくダイアナ。凍えるような寒さの夜中に屋敷を抜け出し、警備員に見つかるダイアナ。ダイアナ=クリステン・スチュワートが全身でカメラに収まり歩み出すとき、映画は激しく動きはじめる。悲劇の鎖を振り切るダイアナ。そこには生の高揚感がある。



『スペンサー ダイアナの決意』Pablo Larrain


 ジョニー・グリーンウッドによるバロック的な宮廷音楽とフリージャズが組み合わさったような素晴らしい劇伴は、繊細なガラス細工に少しずつヒビが入っていくようなダイアナの心理をギリギリのエレガンスで反響させている。バロック的なテーマを反復させながら徐々にフリージャズ的な展開が前景に強調されていくこの劇伴には、ダイアナが身に纏うファッションのように色彩のプリズムを彩る美しさがある。なによりカオスの中に色彩のプリズムを放つこの劇伴は、ダイアナ=クリステン・スチュワートの反抗的なエッジと響き合っている。


「週に2、3回は、ダイアナが亡くなっているという事実に完全に打ちひしがれていました。毎日毎日、彼女を生かすために戦っていたのですから」(クリステン・スチュワート)*1


 ダイアナは生きようともがいている。クリステン・スチュワートは、彼女が出演しているシャネルのCMを彷彿とさせる生気の漲るダンスを披露する。すべての悲しみを振り切る舞踏のようなダンスは、ダイアナの人生を刹那的に解放させる。たとえ悲劇がスクリーンの外に置き去りにされたままだったとしても。エレガントに壊れていくダイアナ。マギーがくれた思いがけない言葉に笑顔を取り戻すダイアナ。王室の反抗者としてのダイアナ。すべてが矛盾することなくダイアナ=クリステン・スチュワートのボディランゲージとして記録されている。『スペンサー ダイアナの決意』は、ダイアナが何故ここまで人々に愛されるアイコンになりえたのか?という問いに対して、説得力のある仮説=寓話を捧げることで回答しているのだ。


*1 Los Amgeles Times[Kristen Stewart blows critics away as Princess Diana. She’s ready to talk about it ]

*2 The Playlist[Pablo Larrain On ‘Spencer’: “We Were Making A Movie About Motherhood” <Interview> ]



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。




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作品情報を見る



『スペンサー ダイアナの決意』

10月14日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

配給: STAR CHANNEL MOVIES

(C) 2021 KOMPLIZEN SPENCER GmbH & SPENCER PRODUCTIONS LIMITED

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