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『ドント・ウォーリー・ダーリン』偽りのユートピアに迷い込んだアリスの冒険※注!ネタバレ含みます。
2022.11.17
核実験という悪夢
筆者は『ドント・ウォーリー・ダーリン』を観ながら、ある一本の映画のことを思い出してしまった。『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(08)だ。ソ連軍からの追っ手を逃れたインディは、ある町に辿り着く。どこを探しても人っ子一人おらず、いるのは服を着せられたマネキンだけ。実はここは核実験のために建設されたサバイバル・タウンで、まさに原爆が投下される直前だったのだ。インディは慌てて冷蔵庫の中に隠れ、難を逃れる…というシーン。マネキンだけが佇む無人の町が、生気を失った人間が佇むビクトリータウンと、妙にリンクしてしまったのである。
ビクトリータウンで男たちがどんな仕事をしているのかは、最後まで明らかにされない。しかし、妻たちが「兵器を造っているらしい」という噂話をしていたり、ジャック(ハリー・スタイルズ)の職業がエンジニアだったり、断発的な地震が続いたりすることから類推するに、おそらく原爆の製造に加担しているのだろう。
『ドント・ウォーリー・ダーリン』© 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
一瞬にしてすべてのものを灰燼に帰す原爆は、トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)の暗喩ではないか(実際フランク役のクリス・パインは、ビクトリー計画をマンハッタン計画になぞらえて演じたという)。信じがたいほどに、圧倒的な暴力性。だが、その正体は女性たちには一切明かされない。だから、これが平穏な日常なのだと信じ込まされ、ミッド・センチュリー・モダンな邸宅に引きこもり、料理や家事に奮闘する。
家父長制の問題を真正面から描くのではなく、様々な古典からの引用、核爆弾という暗喩を織りまぜることで、ある種の寓話として構築すること。『ドント・ウォーリー・ダーリン』には、「SFというジャンルは、娯楽を通して政治問題を語ることができる」と語った、オリヴィア・ワイルドの戦略が張り巡らされている。そして本作は、彼女が並外れた映画監督であることを高らかに宣言した映画でもあるのだ。
文:竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
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『ドント・ウォーリー・ダーリン』
11月11 日(金)日本公開
配給: ワーナー・ブラザース映画
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