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『ドント・ウォーリー・ダーリン』偽りのユートピアに迷い込んだアリスの冒険※注!ネタバレ含みます。
2022.11.17
※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
『ドント・ウォーリー・ダーリン』あらすじ
完璧な生活が保証された街で、アリスは愛する夫ジャックと平穏な日々を送っていた。そんなある日、隣人が赤い服の男達に連れ去られるのを目撃する。それ以降、彼女の周りで頻繁に不気味な出来事が起きるようになる。次第に精神が乱れ、周囲からもおかしくなったと心配されるアリスだったが、あることをきっかけにこの街に疑問を持ち始めるー。
Index
フェミニズムの問題を寓話的に描いた、ディストピアSF
『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(19)で、華々しい長編監督デビューを飾ったオリヴィア・ワイルド。『トロン: レガシー』(10)、『ラッシュ/プライドと友情』(13)、『リチャード・ジュエル』(19)と、女優として確固たるキャリアを築き上げてきた彼女は、気鋭のフィルムメーカーとしても一目置かれる存在となった。
「女性監督の2作目に投資する人は、正直男性監督よりも少ないと思います。私の映画は10億ドルを稼いだわけではありませんが、カルチャーとしての時代感覚を刺激することで、次のチャンスを掴めました。そこから“私は映画監督です”と言える権利を得たと、心から思っています」(※)
『ドント・ウォーリー・ダーリン』予告
デビュー作での手腕が評価され、彼女の元には数多くのシナリオが届けられた。だが、彼女はその全てを断ったという。『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』と同じようなコメディ映画ばかりだったからだ。むしろ彼女が惹きつけられたのは、’50年代アメリカの田舎町を舞台に繰り広げられる、『ドント・ウォーリー・ダーリン』(22)と名付けられた奇妙なSFスリラー。“男性社会に囚われた女性”というフェニミズムの問題を、寓話的に描けるアイデアに可能性を見出す。
「SFというジャンルには、娯楽を通して政治問題を語ることができる、長い映画の歴史があります。フェミニズムを単純化しすぎたストーリーには、楽しさも感激もありません。もっともっと複雑なんです」(※)
オリヴィア・ワイルドは、本作の製作にあたって『トゥルーマン・ショー』(98)を参考にしたと語っている。ピーター・ウィアー監督によるこの傑作は、リアリティ・ショーの主人公として虚構の世界で生きてきたトゥルーマン(ジム・キャリー)が、その真実を知り現実の世界へと旅立つ物語だった。
『ドント・ウォーリー・ダーリン』© 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
献身的な主婦として、男性にとってのあるべき理想像を演じるアリス(フローレンス・ピュー)もまた、「男は外で仕事をし、女は家で料理と家事をする」というジェンダーロールに囚われていることに気付き、あるべき自分の世界へと旅立つ。まさしく、構造的には『トゥルーマン・ショー』と同一なのである。
窓に押しつぶされたり、ラップをぐるぐる巻き付けたり、アリスはこの映画で何度も窒息しそうになる。それは、彼女がこの偽りのユートピアに息苦しさを感じてしまったからだろう。自分が男性の性欲と食欲を満足させる存在でしかないことに、気づいてしまったからだろう。本作はフェミニズムの問題を寓話的に描いた、ディストピアSFなのである。