女、女たち
デヴィッド・ロウリーは、七歳のときに『ポルターガイスト』という初めてのビデオ作品を撮っている。傑作『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』(17)のシーツを被った幽霊のイメージは、おそらく少年時代に撮ったこの短編の記憶から召喚されている。『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』がそうだったように、デヴィッド・ロウリーは時間や空間に取り残された主人公を再び『グリーン・ナイト』で描いている。
緑の礼拝堂に向かうガウェインは、人々が語る物語から取り残され完全に路頭に迷っている。馬に乗ったガウェインが十字路で迷うシーンが示唆的だ。十字路には檻に閉じ込められた骸骨がぶら下がっている(『ウィロー』(88)へのオマージュ)。礼拝堂への道中に出会う、霊的で妖精のような人々、琥珀色の光、降り注ぐ塵や深い霧、瞑想的なカメラワークは、伝説の主人公ではなく、迷い子としてのガウェインを浮かび上がらせる。ガウェインの堂々たる肖像画は、むしろ彼の本当の姿を剥奪している。肖像画はガウェインにとって鏡ではない。ガウェインの実像・輪郭は、風景の中に消えてしまいそうなくらいに弱々しい。
『グリーン・ナイト』© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved
本作にはホラー映画のような映像と音響が施されている。インタビューでも語られているようにフランシス・フォード・コッポラによる『ドラキュラ』(92)は、大きなインスピレーション元だ。盗賊たちに何もかもを奪われたガウェインが、廃墟となった別荘で出会う聖ウィニフレッド(エリン・ケリーマン)とのシーンは、『ドラキュラ』へのオマージュとして撮られたという。最小限の光量で撮られたこのシーンは、ガウェインだけでなく、観客の視界をも不安定にさせる。真っ暗な画面に映えるウィニフレッドの白いドレスが放つ幽玄的な美しさ。そしてウィニフレッドがガウェインに放つ「触わらないで」という強烈な台詞。この台詞には、騎士ならば女性を紳士に扱いなさいというメッセージと、幽霊である彼女の存在が二重に表わされている。
エセルをはじめガウェインの出会う女性たちは、彼を助けたがっている。しかし伝説の騎士になりたいガウェインは、女性たちの忠告からの学びにことごとく失敗している。その一方でガウェインは、自分が伝説に値しない人物であることも知っている。騎士の行動規範は彼の外側にある。ガウェインは善良であることと偉大であることの間で引き裂かれ、迷子になっている。