王国の衰退、落下
「アイライトはかなり重要でした。緑の騎士や聖女ウィニフレッドがフレームに入るときは、いつでもアイライトをつけるようにしました。世界にちょっとした魔法がかかるときは、その魔法に目を輝かせるようにしました」(撮影監督:アンドリュー・ドロス・パレルモ)*
冒頭の緑の騎士の斬首シーンに限らず、『グリーン・ナイト』では切られた首が床に落ちるショットに震撼する。首が床に落ちたときのドスンという響きは、その重量を感じさせるだけに余計に恐ろしい響きとなっている。そしてこのドスンという落下の響きこそが、ガウェインの内なる恐怖に他ならない。ガウェインの物語の「作者」である緑の騎士の出番は、実のところそれほど多くない。それにも関わらず緑の騎士は、『地獄の黙示録』(79)でマーロン・ブランドが演じたカーツ大佐のような圧倒的なカリスマ性で、ガウェインの恐怖を常に支配している。
娼婦エセルと貴婦人という対照的な階級にある女性を、アリシア・ヴィキャンデルは一人二役で演じている。主(ジョエル・エドガートン)の城における短い共同生活。自身の卑しい欲望に抗うことのできなかったガウェインに、貴婦人は言い放つ。「あなたは騎士ではない」。ガウェインにとってエセルによく似た貴婦人は誘惑者であり、試練を与える存在だ。
『グリーン・ナイト』© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved
緑の礼拝堂へ出発する際、ガウェインは母親から緑の帯を受け取る。これを身に着けている限り危害を加えられることはないという魔法がかけられた緑の帯。腸のようにも見えるこの緑の帯は、母親のモーガンだけでなく、本作に登場するすべての女性と繋がったへその緒のように思える。へその緒が繋がったまま大人になったガウェイン。琥珀色に包まれた胎児の冒険。ガウェインの旅路の外側には、彼が知ることのない女性たちのネットワークが存在している。ガウェインの部下が、生まれたばかりの赤ん坊の母親=エセルに向けて金銭を投げつける暴力的なシーンは、このネットワークを蔑ろにしている。偉大であることがどれほど重要だというのか?エセルの台詞を思い出す。「愚かな男は滅びる」。
アーサー王の死と共に衰退していく王国の姿が、サイレント映画仕様の絵巻物のように続いていく。思い返せば冒頭シーンでエセルがガウェインに水をかけたのは、「目を覚ませ」という痛切なメッセージだったのだろう。ガウェインは目を覚まして、へその緒を自分で切り離し、伝説の裏側で蔑ろにされてきた歴史を見つめる必要がある。伝説から降りることへの勇気。その恐怖に打ち勝つことが、次の時代の伝説となっていく。女性たちによる「勇気を出せ」という言葉は、新しい未来に向けて照射された、辛辣にして痛烈なメッセージなのだ。
* Film Maker Magazine [“The Horse is Constantly Looking at the Technocrane”: DP Andrew Droz Palermo on The Green Knight]
映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
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『グリーン・ナイト』
11月25日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!
配給:トランスフォーマー
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