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『トゥモロー・モーニング』舞台のトップスターが映画でも活躍する。その難しさを克服する俳優の出現

©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan

『トゥモロー・モーニング』舞台のトップスターが映画でも活躍する。その難しさを克服する俳優の出現

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一瞬で切り替える20代と30代の演技



 サマンサとともに圧巻のボーカルを堪能させるラミンだが、『トゥモロー・モーニング』は、近年のミュージカル映画の流行とは違う手法で撮影された。2012年の『レ・ミゼラブル』あたりから、キャストが撮影時に歌った声をそのまま本編に収める、「ライヴレコーディング」が多用されるようになった。従来のミュージカル映画では歌の部分をスタジオで録音し、それに合わせて本番で撮影するスタイルが一般的だった。踊りながら歌っても息が切れないなど、クリアな歌声を届けられるからだ。しかし最近は、俳優がその場で発した“生音”を採用することで、リアルな感動につなげたいという作り手が増えている。『ディア・エヴァン・ハンセン』や『シラノ』(21)などライヴレコーディングが基本のミュージカル映画が多い。しかし『トゥモロー・モーニング』では、あらかじめ歌が録音され、本番ではいわゆる“口パク”の撮影であった。しかしこのメリットについてラミンは次のように打ち明ける。


 「最初にスタジオで録音する際に、作詞・作曲を手がけたローレンス(・マーク・ワイス)から曲に込めた思いを学び、監督からは撮影時のアイデアを聞くことができて、イメージを膨らませて歌に集中できました。そのイメージを保ったまま撮影本番に臨めるので、逆に演じやすくなったのです。自分自身の声に合わせて歌い、それをリアルに見せることは、テクニックが必要ですが大きな楽しみでもあります。もちろん本番も全力で歌っていますよ」



『トゥモロー・モーニング』©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan


 そして映画ならではの挑戦は、2つの時代を演じ分けることだが、劇中には20代と30代のビルが向き合うシーンもある。もちろん映像で合成されるのは前提としつつ、このシーンの撮影が同じ日に行われたという。30代のビルはヒゲを生やして外見の区別ができるようになっており、ラミンは30代を演じた直後にヒゲを剃り落して20代を演じたのである。


 「ヒゲを剃り落とすことで、実際に肉体がすっきりと軽くなったようで、思いのほか一瞬で若い時代になりきることができました。10年間、背負った重荷を一気に外し、余計なエネルギーが減った感覚です。ただ人間の10年間って、そんなに思ったほど根本は変わらないですよね。まわりのキャストが、その都度、10年を行き来するうえで助けになり、このあたりは一定の時間続けて演じる舞台と違い、映画ならではの演技スタイルだと実感できました」


 イランに生まれ、カナダに移住し、舞台での仕事を目指してロンドンに向かったラミン・カリムルー。ミュージカル界で成功し、次は映画界でどこまで躍進するのか。冒頭で記したように、これは難しいチャレンジではあるが、この後の映画では、ドラッグを巡る人間ドラマ(『Bound』)、2054年を舞台にハッカーが人類を救うSF作品(『The Stratum』)でメインキャストを務めており、得意の歌が封印された世界でどれだけ演技の実力を示しているのかに期待がかかる。目指すのは「サム・ロックウェルのようなカメレオン俳優」ということで、舞台と映画、その両方で稀有なスターになる姿を想像させるのだ。



文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。



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作品情報を見る



『トゥモロー・モーニング』

12月16日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座ほか全国公開

配給:セテラ・インターナショナル

©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan

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