2021.11.26
『ディア・エヴァン・ハンセン』あらすじ
エヴァン・ハンセンは学校に友達もなく、家族にも心を開けずにいる。ある日彼は、自分宛てに書いた“Dear Evan Hansen（親愛なるエヴァン・ハンセンへ）”から始まる手紙を、同級生のコナーに持ち去られてしまう。それは誰にも見られたくないエヴァンの「心の声」が書かれた手紙。後日、校長から呼び出されたエヴァンは、コナーが自ら命を絶った事を知らされる。悲しみに暮れるコナーの両親は、彼が持っていた〈手紙〉を見つけ、息子とエヴァンが親友だったと思い込む。彼らをこれ以上苦しめたくないエヴァンは、思わず話を合わせてしまう。そして促されるままに語った“ありもしないコナーとの思い出”は両親に留まらず周囲の心を打ち勇気を与え、SNSを通じて世界中に広がっていく。思いがけず人気者になったエヴァンは戸惑いながらも充実した学校生活を送るが、〈思いやりでついた嘘〉は彼の人生を大きく動かし、やがて事態は思いもよらぬ方向に進む—。
現代のブロードウェイを代表する傑作ミュージカル、『ディア・エヴァン・ハンセン』が映画化されていよいよ日本に上陸する。舞台版は2016年にブロードウェイで上演されるや、トニー賞でミュージカル作品賞・ミュージカル脚本賞・オリジナル楽曲賞など6部門に輝き、現地ではチケットが連日完売となった大ヒット作。なかなか劇場に足を運べない海外の舞台ファンにとっては待望の映画版だ。
ところが本作は、期せずして、ただの映画化よりも大きな意味を持つ作品となった。2020年3月、新型コロナウイルス禍の影響によってブロードウェイの劇場は閉鎖に追い込まれ、『ディア・エヴァン・ハンセン』も上演中断を余儀なくされたのである。映画化の企画が本格的に動き始めたのは、奇しくもその3ヶ月後にあたる2020年6月のこと。未曾有のパンデミックで歩みを止めた演劇界から、本作はバトンを受け取るようにして走り始めたのだ。
『ディア・エヴァン・ハンセン』予告
Index
- 複雑なテーマを語る、現代ミュージカルの極北
- 現代屈指の作家たちによるコラボレーション
- スティーヴン・チョボスキー映画としての『ディア・エヴァン・ハンセン』
- 2021年に『ディア・エヴァン・ハンセン』を映画化すること
複雑なテーマを語る、現代ミュージカルの極北
「親愛なるエヴァン・ハンセンへ（Dear Evan Hansen）」。その手紙は、不安と孤独を抱える高校生エヴァン・ハンセンが、セラピストからの宿題で、自分自身に宛てて書いたものにすぎなかった。ところが、変わり者の同級生・コナーに手紙を持ち去られたことから、エヴァンの運命は大きく動き始める。
エヴァンがその手紙を次に見たのは、コナーの自死を知らされた時のことだった。コナーの母・シンシアと義父・ラリーは、「親愛なるエヴァン・ハンセンへ」という手紙を、生前のコナーがエヴァンに宛てた遺書だと勘違いしていたのである。しかしエヴァンは、その手紙の真実を口にすることができなかった。あろうことか、コナーとは親友同士だったという嘘さえついてしまう。
『ディア・エヴァン・ハンセン』© 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
自分の嘘を引っ込められなくなったエヴァンは、同級生のジャレッドに頼んでコナーとの架空のメールを作り、空想上の思い出を語る。シンシアとラリーは彼の言葉に救われ、また、エヴァンは密かに思いを寄せていたコナーの妹・ゾーイと親しくなっていった。そしてエヴァンは、コナーの追悼式で故人の親友としてスピーチをすることになる。
想像さえしない事態に巻き込まれながら、エヴァンの日常は劇的に好転していく。唯一の問題は、すべての始まりとなった“嘘”だけ……。そんな中、シングルマザーであるエヴァンの母・ハイディはエヴァンの変化を訝しんでいた。人生を変えた“嘘”の裏側にある真実を、エヴァンは打ち明けることができるのか？
舞台『ディア・エヴァン・ハンセン』が注目を浴びた理由はいくつもある。物語を彩る名曲の数々、エヴァンを演じたベン・プラットによる演技、そしてミュージカルながら複雑なテーマを語るストーリーの力だ。「嘘に嘘を重ねていく主人公の物語」は、ウィリアム・シェイクスピア『マクベス』などにも通じる定型だが、本作はその堅牢な骨格に、現代社会が抱えるメンタルヘルスや家族の問題、さらにSNSの明暗といった要素をあざやかに織り込んだのである。
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