2021.11.26
現代屈指の作家たちによるコラボレーション
ブロードウェイで高く評価された『ディア・エヴァン・ハンセン』だが、残念ながら日本国内でプロによる上演歴はない。そこで映画版をご紹介する前に、この舞台を生んだクリエイターの紹介から始めることにしよう。
トニー賞のほか、グラミー賞で最優秀ミュージカル・ショー・アルバム賞を受賞した本作の楽曲を手がけたのは、気鋭の音楽家コンビであるベンジ・パセック&ジャスティン・ポール。映画ファンの間でも『ラ・ラ・ランド』(16)の作詞や『グレイテスト・ショーマン』(17)の作詞・作曲で知られる才能だ。二人が本作を着想したきっかけは、2001年のアメリカ同時多発テロ事件とSNSの普及、そして社会問題となっていた自殺の急増だった。
2011年、パセック&ポールは作家のスティーヴン・レヴェンソンと出会い、本作の準備を本格的に開始する。レヴェンソンはドラマ「マスターズ・オブ・セックス」(13~16)のほか、サム・ロックウェル&ミシェル・ウィリアムズ主演「フォッシー&ヴァードン ~ブロードウェイに輝く生涯~」(19)を執筆。『ハミルトン』リン・マニュエル=ミランダの初監督作品『tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』(21)でも脚本を担当している。
3人が生んだ舞台『ディア・エヴァン・ハンセン』は2014年のワークショップを経て、2015年にワシントンD.C.で世界初演を迎え、2016年にブロードウェイへ進出した。大きな成功を収めた本作は、社会現象となった『ハミルトン』にも並ぶ現代ミュージカルの重要作。パセック&ポール、レヴェンソンの3人にとってはキャリアのターニングポイントとなっている。
そんな名舞台の映画化にあたって起用されたのは、作家・映画監督・脚本家のスティーヴン・チョボスキーだった。『ウォールフラワー』(12)や『ワンダー 君は太陽』(17)で知られるチョボスキーは、人間ドラマの名手として知られ、ティーンエイジャーや家族の物語を丁寧に描いてきた人物。もっとも『ディア・エヴァン・ハンセン』のトーンとチョボスキーの作風にはやや違いがあっただけに、このスタッフィングは一種のサプライズでもあっただろう。これを日本国内のケースでたとえるなら、東野圭吾による「流星の絆」を宮藤官九郎が脚色してドラマ化したのにも近い、個性的な作家同士のコラボレーションなのである。
スティーヴン・チョボスキー映画としての『ディア・エヴァン・ハンセン』