(C)2017 Florida Project 2016, LLC.
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』演技未経験に子役から名優まで、常識破りのキャスティングがもたらす個性のハーモニー
2018.05.14
多彩な個性を輝かせた真の立役者ウィレム・デフォー
ご覧の通り、本作には初めて演技に挑戦するブレアや、子役のブルックリン、それに現地で採用した、いわば方法論の通用しないキャストが数多く入り乱れている。その中で決して忘れてはいけない重要な柱が存在する。それがモーテルの管理人を演じる名優ウィレム・デフォー。
おそらくこの現場のキャストには学校や劇団で習得するような「演技的な言語」を理解する者はほとんどいなかったはず。そんな中で彼は、出演者たちの織り成す多彩な「虹」をつなぎ合わせる役目を絶妙な感度で全うした。ベイカー監督も彼についてこう語る。
「彼(デフォー)は新人とうまく混ざりあい、なおかつそれを芸術としてうまくコントロールして、地に足のついたシーンへと昇華させてくれたんです。」
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(C)2017 Florida Project 2016, LLC.
そこではプロの俳優同士が「あ、うん」の呼吸でタイミングを合わせるのとは真逆の、一つ間違えば何もかもが成り立たなくなる危うさも存在し、デフォーにはどんな特殊な変化球もキャッチする「受け」の柔軟性が求められたはず。それを苦にもせずに、共演者の個性を輝かしい可能性へと転じ続けた、この名優の貢献度は計り知れない。まさにモーテルの住人たちに振り回されつつも、心を尽くしてプロフェッショナルに人々をカバーする管理人。いや守護天使とでも言うべきか。
かくして本作を彩る出演者たちは、それぞれの個性を精一杯に輝かせながら互いに絶妙なハーモニーを響かせてみせた。おそらくこの映画がたまらない開放感と心地よさを醸し出すのは、作品を構成するあらゆるレベルにおいて多様性と創造性が花開いているから。そうやって何層にも虹のかかった状態こそを真の意味での「ベイカー・レインボー」と呼ぶのだろう。と同時に、映画と社会は入れ子構造を持つ。ケン・ローチやマイク・リーといった巨匠たちに影響を受けてきたベイカー監督ゆえ、これらの美しい風景からは「この虹を最も必要とするのは、実社会そのもの」というメッセージすら聞こえてきそうだ。
我々は本作のエンタテインメント性に酔いしれながらも、ベイカー監督がこのプロジェクトに込めたメッセージに耳を傾け、「この映画を魅力的に輝かせているもの」について今一度、じっくりと思いを巡らせてみるべきなのかもしれない。
参考URL:
https://www.theguardian.com/film/2017/oct/29/bria-vinaite-florida-project-interview
https://www.instagram.com/chronicflowers/
http://deadline.com/2017/11/the-florida-project-willem-dafoe-oscars-interview-1202216071/
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
5月12日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
公式サイト: http://floridaproject.net/
(C)2017 Florida Project 2016, LLC.
※2018年5月記事掲載時の情報です。