2023.01.11
インタビュイーとして呼ばれなかった家族たち
このドキュメンタリーには、各界の著名人が数多くインタビュー出演している。映画監督では、クエンティン・タランティーノ、セルジオ・レオーネ、ベルナルド・ベルトルッチ、ダリオ・アルジェント、クリント・イーストウッド。映画音楽家では、ハンス・ジマー、ジョン・ウィリアムズ。ミュージシャンでは、パット・メセニー、ブルース・スプリングスティーン、クインシー・ジョーンズ、メタリカのジェイムズ・ヘットフィールド(メタリカは『続・夕陽のガンマン』をライブのSEとして使っているのだ!)。個人的にはブルース・スプリングスティーンがモリコーネ・ファンだったというのが意外だが、それだけこの巨匠がオールジャンルを横断してきたという証左だろう。
逆に、ジュゼッペ・トルナトーレがあえてインタビュイーとして呼ばなかった人物もいる。彼の家族たちだ。モリコーネの創作の女神だった妻のマリア。モリコーネの息子で作曲家のアンドレア・モリコーネ。最も近い場所で彼を見守り続けてきた家族たちの証言は、いっさい映画には登場しない。
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』©2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras
もちろん、できるだけプライベートには立ち入らないよう配慮した結果なのだろうが、それ以上に筆者には、純粋に音楽ドキュメンタリーとして映画を構築しようとした、トルナトーレの強烈な意思を感じてしまう。いや、彼の半生を通して“映画史”そのものを語ろうとした、と言い換えてもいいかもしれない。トルナトーレがこのプロジェクトをスタートさせるにあたって、プロデューサーに伝えた要望は「モリコーネが関わった映画のシーンを自由に使えること」だった。それだけこの巨匠が果たしてきた役割は、あまりにも大きい。
2020年7月、エンニオ・モリコーネは享年91歳でこの世を去る。5年以上にわたる密着取材を敢行した本作が、結果的に生前の姿を捉えた最後の作品となった。だが我々映画ファンは、モリコーネが最も信頼していた映画監督によって本作が作られた僥倖に感謝すべきだろう。このドキュメンタリー・フィルムに刻まれた157分は、歴史そのものだ。
*1、*3 https://variety.com/2021/film/global/ennio-morricone-documentary-giuseppe-tornatore-1235061207/
文:竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
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『モリコーネ 映画が恋した音楽家』
1月13日(金)TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
配給:ギャガ
©2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras