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『愛されちゃって、マフィア』ジョナサン・デミが生み出した新しいギャング・コメディ

(c)Photofest / Getty Images

『愛されちゃって、マフィア』ジョナサン・デミが生み出した新しいギャング・コメディ

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キラキラ輝く主演たちとクセモノ揃いのデミ組



 この映画が今も根強い人気を獲得しているのは、主演のミシェル・ファイファーに負うところも大きいかもしれない。80年代に学園ミュージカル『グリース2』(82)でメジャー映画の初主演を飾り、ギャング映画『スカーフェイス』でも大役だった。そして、『危険な関係』(88)の助演で初のオスカー候補となり、『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(89)でクラブの歌姫役を演じて、同賞の主演女優賞ノミネート後はハリウッドの中心的な女優のひとりとなった。


 デミ監督は前述のPositifのインタビューで、ファイファーについてこんな発言をしている。「実は素晴らしい資質を持っている女優だ。人物の深い部分も表現できるし、特にコメディではその才能が生きると思う」。これは『恋のゆくえ』で彼女が大ブレイクをはたす前に出たコメントなので、デミがいかに女優を見る目があったかが分かる。彼女はジョン・ランディス監督の『眠れぬ夜のために』(85)でもチャーミングなコメディエンヌぶりを見せたが、『愛されちゃって、マフィア』ではどこか天然な魅力が生きる。髪を少し短めに切った彼女はとてもキュートで、初デートに出かける時の赤の水玉のドレスもよく似合う。主演女優として本当にキラキラ輝いている。


 ファイファーの演技が気にいったデミは、『羊たちの沈黙』も最初は彼女にオファーしたが、暴力的すぎる、という理由で出演を断られたという。デミがもう1本、ファイファーと一緒に映画を撮っていたら、彼女の別の魅力が引き出されたかもしれない。



『愛されちゃって、マフィア』(c)Photofest / Getty Images


 相手役のマシュー・モディーンは、近年ではドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(16~)で博士役を演じているが、80年代は『バーディ』(84)や『フルメタル・ジャケット』(87)などで活躍し、日本でもけっこう人気があった。デミは彼の起用について前述のメディアで、「彼にはかつてのジェームズ・スチュワートを思わせる魅力がある。FBIのように腐敗した組織でも善人でいられる人物を演じてほしかった。マシューはこれまでシリアスな役を演じることが多かったが、素顔の彼は笑いのセンスを持っているし、役者として豊かな才能がある。この映画では彼のユーモアやエネルギーにすごく助けられた」モディーンのソフトな雰囲気のおかげで、映画に優しさが生まれているし、彼とファイファーが一緒にいる場面はほほえましい。「人生はやり直せる」と彼女に劇中で語りかけるところが印象的だし、エンドクレジットで見せるふたりのやりとりにも意外性があって最後まで目が離せない。


 また、特にインパクトのある脇役を演じるのがフランク役のディーン・ストックウェルと妻役のマーセデス・ルールだろう。ストックウェルは子役の出身で、80年代は『パリ・テキサス』(84)、『ブルー・ベルベット』(86)等に出演。この映画では凄みはあるが、それでいてマヌケなギャングのボス役を好演し、アカデミー助演男優賞候補となっている。ルールは『フィッシャー・キング』(91)でアカデミー助演賞授賞を受賞した実力派の女優。『愛されちゃって、マフィア』では嫉妬に狂ったギャングの妻役だが、独特のユーモアがあって憎めない。


 アンジェラのセクシーな夫役はアレック・ボールドウィン(『レッドオクトーバーを追え!』90)、愛人役はナンシー・トラヴィス(『スリーメン&ベビー』87)、FBIの捜査官役でマイクの相棒役はオリヴァー・プラット(『三銃士』93)、ギャングの妻仲間はジョーン・キューザック(『ワーキング・ガール』88)。かつては活躍していた俳優たちが次々に出てくるので、見ていて飽きない。また、ミュージシャン俳優としては、前述のクリス・アイザック以外に元ニューヨーク・ドールズのデヴィッド・ヨハンセンも出演。


 そして、デミ組ともいうべき曲者たちも勢ぞろい。フランクのギャングの仲間役は『羊たちの沈黙』でも出ていたポール・レイザー。彼はデイヴィッド・バーンの舞台振付師であるアニー・B・パーソンの夫で、彼らは仲間と一緒に意欲的なビッグ・ダンス・シアターも立ち上げ、数々の賞も受賞している。ごつい体形の美容師役はチャールズ・ネイピア。FBI捜査官役は、この映画の製作者でもあるケネス・ウット。漫画に出てきそうな特異な風貌がデミに気に入られているのか、多くの彼の映画にワンシーンだけ出演。ヒロインが面接に行くチキン屋のおやじ役はトレイシー・ウォルター。さらに『サムシング・ワイルド』『レイチェルの結婚』(08)等にも出演のレゲエ・シンガー、シスター・キャロルが美容院のチーフ役で顔を見せる。


 そして、この映画のデミ組で、1番、驚いたのがゲイリー・ゴーツマンの登場である。レストランのピアノ弾きの役で自作と思われる歌も披露。彼はポール・トーマス・アンダーソン監督の『リコリス・ピザ』(21)の主人公、ゲイリー・ヴァレンタインのモデルとなった人物だ。この映画ではティーン時代しか描かれていなかったが、その後、実生活の彼は数多くの映画に製作者としてかかわり、デミの『ストップ・メイキング・センス』、『羊たちの沈黙』、『フィラデルフィア』などにも参加。『リコリス・ピザ』ではクーパー・ホフマンが演じた人物の実像を少しだけ見られる貴重な作品にもなっている。



文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



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