1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 愛されちゃって、マフィア
  4. 『愛されちゃって、マフィア』ジョナサン・デミが生み出した新しいギャング・コメディ
『愛されちゃって、マフィア』ジョナサン・デミが生み出した新しいギャング・コメディ

(c)Photofest / Getty Images

『愛されちゃって、マフィア』ジョナサン・デミが生み出した新しいギャング・コメディ

PAGES


女性の視点によるギャング映画



 デミ監督はどうして『愛されちゃって、マフィア』を作る気になったのだろう? フランスの雑誌“Positif”(1989年1月号)に掲載されたインタビュー記事によれば、彼はギャングを主人公にした映画を以前から撮りたかったという――「ギャング映画はアメリカ映画とフランス映画が得意とするジャンルで、自分もこのジャンルが好きで撮ってみたかった。ただ、ジャンル物だから、従来の形を壊して新しい要素を加えるのがむずかしい。ところが、『愛されちゃって、マフィア』には女性の視点でギャングを描いてあり、コミカルなセリフも盛り込まれていた」


 そこでこの企画を進め、“スクリューボール・コメディ界の名匠”として知られるプレストン・スタージェスの『サリヴァンの旅』(41)のようなコメディの娯楽作をめざしたという。女性の視点によるギャング映画は確かに新しかった。アメリカのギャング映画といえば、80年以降の作品では、ブライアン・デ・パルマ監督の『スカーフェイス』(83)やマーティン・スコセッシ監督の『グッドフェローズ』(90)のように男性がメインのものが多いが、『愛されちゃって、マフィア』の主人公はギャングの妻、アンジェラ(ミシェル・ファイファー)である。


 彼女はこれまで夫のフランク(アレック・ボールドウィン)が持ち込んだ豪華な家具に囲まれて暮らしているが、すべて盗品で、そんな生活に内心うんざりしている。そして、夫が予期せぬ死を遂げた後、彼女は盗品をすべて処分する。ひとり息子や犬と一緒に家を出て、ぼろぼろのアパートで新生活を始めるが、以前からアンジェラに気があったギャングのボス、トニー(ディーン・ストックウェル)が接近してきて、彼女は困惑する。一方、トニーがからんだ殺人事件のゆくえを追うFBIの捜査官、マイク(マシュー・モディーン)はアンジェラの家に盗聴器を仕込み、彼女を監視するが、やがてふたりの間にロマンスがめばえる。



『愛されちゃって、マフィア』(c)Photofest / Getty Images


 ひとりの女性の新しい旅立ちを描いた作品で、美容院で働きながら不器用ながらも別の人生を歩もうとするアンジェラをこちらも応援したくなる。思えば、デミの出世作『メルビンとハワード』にも重なる部分がある。牛乳配達の仕事をする気のいい男、メルビン(ポール・ル・マット)が主人公だが、妻(メアリー・スティーンバージェン)はそれまでの夫との貧乏生活にうんざりしている。そこで場末のバーのダンサーとして新生活を始めようとする。


 デミ監督は女性の新しい出発に興味があるのだろうか。70年代に手掛けた『クレイジー・ママ』(75、ビデオ公開)では住む土地を奪われた親子3代の女たちが旅に出て、時には犯罪に手を染めながらも新天地をめざす(『愛されちゃって、マフィア』同様、ここでも主人公は美容院の仕事をしていた)。アカデミー作品賞受賞作『羊たちの沈黙』(91)のヒロインはFBIの研修生で、彼女は不慣れながらも犯罪事件に取り組むことになる。新しい世界を歩こうとする女性たちに監督はいつもエールを送る。


 『愛されちゃって、マフィア』の敵役が女性という点も新鮮だ。ギャングのボス、トニーの妻コニー(マーセデス・ルール)はアンジェラと夫との不倫を疑っていて、やがては大胆な行動に出る。強面のトニーも、そんな彼女には頭が上がらない。敵役といっても、とても愛敬のある人物だが、物語の構図としてはアンジェラVSコニーの対立軸があり、女性の視点によるギャング映画としてのスリルを高めている。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 愛されちゃって、マフィア
  4. 『愛されちゃって、マフィア』ジョナサン・デミが生み出した新しいギャング・コメディ