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『愛されちゃって、マフィア』ジョナサン・デミが生み出した新しいギャング・コメディ

(c)Photofest / Getty Images

『愛されちゃって、マフィア』ジョナサン・デミが生み出した新しいギャング・コメディ

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デミの音楽センスとパフォーマンス感覚



 この映画には熱心な観客がついていると書いたが、そのクセになる理由を考えてみた。おそらく、出演者のパフォーマンスを映像に取り込むのが得意な監督のショーマンシップが反映されることで、繰り返し観たくなるのではないだろうか?


 彼が作った最高のパフォーマンス映画といえば、まずは『ストップ・メイキング・センス』(84)が浮かぶ。デイヴィッド・バーンが在籍したニューヨークのバンド、トーキング・ヘッズの最盛期のコンサートを映像に収めた作品だが、この映画もバーンのライブ映画『アメリカン・ユートピア』(20)と共に再浮上し、劇場でのリバイバルは成功を収めた。初公開から40年近い歳月が流れていたが、そこには普遍的な力が感じられた。音楽そのものも、もちろん素晴らしいが、そのエネルギッシュなパフォーマンスを(ただのライブ映像ではなく)劇場映画としてしっかり見せきるところにデミの演出家としてのすごさがある。


 『愛されちゃって、マフィア』はサントラ盤も楽しくて、そのリズムが物語にはずみをつける。タイトルバックに流れるのは人気シンガー、ローズマリー・クルーニーの54年のヒット曲「マンボ・イタリアーノ」。列車のレールの映像がさまざまなアングルから捉えられ、グラフィックで、ポップなイメージのオープニングだ(デザインはタイトルデザインの草分け的な存在、パブロ・フェロで、彼は『ストップ・メイキング・センス』や『フィラデルフィア』93も担当)。このタイトルバックの後、通勤列車の中で最初の殺人が起きるので、その伏線ともいうべきスリリングな始まりだ。



『愛されちゃって、マフィア』(c)Photofest / Getty Images


 また、デミがミュージック・ビデオを手がけたことがある英国のバンド、ニュー・オーダーの「ビザール・ラヴ・トライアングル」も出てくるが、これはアンジェラ、マイク、トニーの三角形の愛を表現する曲だろうか?(そこにコニーも加えると四角形の愛になってしまうが)。クリス・アイザックの「サスピシャス・オブ・ラブ」もサントラに収録されているが、アイザックは俳優としても出演していて、ピエロの扮装をして中盤で銃撃戦を見せる(アイザックは『羊たちの沈黙』にもスワット役で出演)。


 他にも、デミの『フィラデルフィア』(93)に出演のQラザラスの「グッドバイ・ホーシズ」、『サムシング・ワイルド』(86)にも出演のザ・フィーリーズの「トゥー・ファー・ゴーン」、デボラ・ハリーの「ライアー・ライアー」、トーキング・ヘッズのメンバーが作ったバンド、トム・トム・クラブの「デヴィル・ダズ・ユア・ドッグ・バイト?」、トーキング・ヘッズのアルバム・プロデューサー、ブライアン・イーノの「ドント・ミス・ユア・ウォーター」等、通好みのサントラだ。ギャングの追跡調査をしているマイクが、ストリートで歌うアカペラ・グループのメンバーのふりをする場面には、デミの遊び心がうかがえる。


 全体の音楽はデイヴィッド・バーン。彼は『愛されちゃって、マフィア』の前にデミが撮ったコメディの快作『サムシング・ワイルド』のオープニングソングも担当。この時はサルサの女王、セリア・クルスとのデュエットが最高に胸躍る仕上がりだった。『愛されちゃって、マフィア』ではボーカル曲はなく、インストゥルメンタルだけの音楽だ。


 前述のPositifのデミ・インタビューによれば、『愛されちゃって、マフィア』ではエンニオ・モリコーネか、カーマイン・コッポラの起用も考えたという。「モリコーネはいつも新しいことに挑戦している作曲家だ。この映画にマカロニ・ウエスタン的なセンスを持ち込んでもいいと思い、彼に頼もうと本気で思っていた。でも、(当時、仲良くしていた)デイヴィッドが自分から音楽をやりたいと言ってくれたので、彼に決まったんだ」


 『愛されちゃって、マフィア』はマフィアの殺害場面から始まり、三角形(いや、四角形?)の愛が登場し、やがて、マイアミの豪華ホテルで人物たちが絡まり合いながらクライマックスを迎える。その盛り上がる感覚にはなんだかライブ演奏を見ているような痛快さがあって、思わず何度もこの映画を見たくなるのだろう。個人的には(デミが発見したという)Pe De Boiというサルサバンドの登場シーンにいつも胸が躍る。主役ふたりの初デートの場面でラテン調の曲が演奏されるが、その心地よいノリに乗せられてしまう。この場面と並行して、別の場所ではギャングの銃撃戦が始まる。サルサの激しいリズムと銃の音が重なる演出にもエンタテインメント映画の醍醐味がある。





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