2023.02.13
『愛されちゃって、マフィア』あらすじ
豪華な家具に囲まれて暮らしているアンジェラ。それらはギャングの夫が持ち込んだ盗品で、彼女は夫との生活に内心うんざりしていた。しかし、夫が予期せぬ死を遂げて、彼女は盗品をすべて処分する。ひとり息子や犬と一緒に家を出て、ぼろぼろのアパートで新生活を始めるが、以前からアンジェラに気があったギャングのボス、トニーが接近してきて、彼女は困惑する。一方、トニーがからんだ殺人事件のゆくえを追うFBIの捜査官、マイクはアンジェラの家に盗聴器を仕込み、監視するが、次第に彼女に惹かれていく__。
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隠れた人気作、奇跡の劇場上映が実現
近年、日本の劇場では旧作の上映が増えているが、2022年に公開された旧作で特に驚かされたのがジョナサン・デミ監督の2本の劇場未公開作。<70―80年代“ほぼ”アメリカ映画傑作選>と題した映画祭が下高井戸シネマで開催され、80年の『メルビンとハワード』と88年の『愛されちゃって、マフィア』がかけられた。一般的な知名度が低い2本の(はずだったが)、劇場に行ってびっくり! どちらもほぼ満席の上映が続いていた。上映回数が少ないせいかもしれないが、それにしても予期せぬ人気ぶり。その頃、寒い日が続いていたが、劇場内は熱気でポカポカ! デミの私設ファンクラブ会長の筆者としては、感動と興奮に包まれながら、スクリーンを見つめることになった。
実は『メルビンとハワード』はアテネ・フランセで中原昌也さんの解説つきで上映されたことがあり、『愛されちゃって、マフィア』は21年京都の映画館で行われた<70―80年代アメリカに触れる! 名作映画鑑賞会>で初の日本上映となった。ただ、どちらも東京の一般劇場では初めての上映。アメリカでの初公開から30~40年以上が経過していたが、そんな2本がまるで勢いあふれる温泉のように世田谷区に噴出した!
『愛されちゃって、マフィア』予告
主催者に聞いた話によれば、『愛されちゃって、マフィア』にはひそかに熱心なファンがついていて、京都で上映した時も、会社を休んで東京からかけつけます、と話していた観客もいたという。この話を聞いてなんとも不思議な気持ちになった。この映画は80年代に日本でも劇場公開の話が出ていて、業務試写も1回だけ行われた(筆者はそこで初遭遇)。今はなきタウン誌「シティロード」に<ストップ・ザ・オクラ>というコラムを作り、公開をよびかけたこともあったが、結局、ビデオだけがリリースされた。しかし、年月を経ることで、ほんの一部とはいえ、熱心な愛好家を得る作品に成長していたようだ。もし、80年代に普通に劇場にかかっていたら、逆に今は忘れられた映画になったかもしれないが、むしろビデオスルーとなることで幻の作品となったのだろう。
映画史に残るような大傑作ではないが、とにかく心が躍るコメディであることは間違いなく、見るたびに愛さずにはいられなくなる。ミシェル・ファイファーをはじめとする出演者たちはキラキラしているし、音楽も軽快だし、何よりも監督が楽しんで作っていることが伝わる。ハリウッド的なエンタテインメントでありながら、マニア心をくすぐるオフビートな隠し味も盛り込まれる。近年のハリウッド映画には、こんな風に気楽に見ることができる良質の娯楽作が減った気がする。その反動もあってか、この作品が今ごろ(まさかの)人気作に踊り出たのだろう。