『フィラデルフィア』あらすじ
ペンシルベニア州のフィラデルフィアで法律事務所のシニアアソシエイトとして働くアンドリュー・ベケットは、同僚に自分がゲイであり、エイズ患者であることを隠していた。事務所にとって重要な案件を任されたある日、同僚の一人がベケットの体の異変に気づく。ベケットは数日間事務所を休むが、直後に事務所を解雇されてしまう。エイズ患者に対する不当な差別と考えたベケットは、かつて敵として戦ったミラーに弁護を依頼するも、同性愛者とエイズ患者への偏見から断られてしまう。しかし、一人でも戦おうとするベケットに心を打たれ、ミラーは依頼を引き受けることを決意する。
Index
民主主義の発祥の地、フィラデルフィアで正義を問う
ペンシルベニア州にあるフィラデルフィアは18世紀にアメリカの独立宣言が採択された場所である。ベンジャミン・フランクリンが起草した宣言には「平等・自由・幸福の追求」と「基本的人権と圧政に対する革命権」などが盛り込まれているという。
ジョナサン・デミ監督のヒューマン・ドラマ『フィラデルフィア』(93)はそのタイトル通り、この土地を舞台にした物語である。エイズのために弁護士事務所を解雇されたゲイの弁護士、アンドリュー・ベケットが自身の尊厳をかけて闘う。ハリウッド映画としては初めてエイズをテーマにした作品となり、主演のトム・ハンクスはアカデミー賞の主演男優賞を受賞した。「平等・自由・幸福の追求」を宣言した土地だからこそ、このテーマの追求にふさわしい
もっともデミ自身は反語的なニュアンスを込めて「フィラデルフィア」のタイトルにしたという。「そのタイトルに皮肉な感じがあるところがおもしろいと思った。脚本の中にこう書かれている。『独立宣言が行われた場所なのに、他のアメリカの都市や町と同じように差別があるじゃないか』」(“Philadelphia Inquirer”93年2月28日号)
『フィラデルフィア』予告
エイズをテーマにしているが、同時にゲイへの偏見の問題も描かれる。製作当時、エイズはゲイに多い病気というイメージもあったので、ゲイ差別の問題も欠かせない要素となったのだ。
大手の弁護士事務所から解雇を言い渡されたアンドリューは、自分を解雇した会社を訴えようとする。しかし、その弁護を引き受けてくれる弁護士を探し出すことができない。黒人の弁護士、ジョー・ミラーに話を持ちかけるが、ゲイ嫌いの彼は申し出を断る。しかし、図書館で不当な扱いを受けている彼を目撃して、結局は弁護を引き受けることになる。
近年はLGBTの問題がもっとオープンに語られるようになったので、このゲイ嫌いの弁護士という設定に時代性を感じなくもないが、製作者たちは彼の人物像をごく一般人の代表者として描きたかったようだ。そんな彼が変わり、主人公と友情を築き上げていくところに映画のドラマとしての醍醐味がある。
フィラデルフィアにはギリシア語で「兄弟愛」という意味があるが、主人公ふたりが新しい関係が映画の核の部分となっている。
また、コロナ禍に見ると、エイズによる差別の問題に現在の状況も重なり、差別や偏見を扱った普遍的な作品として考えさせられるものがある。