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『フィラデルフィア』ジョナサン・デミが自由の土地で描いた、人間の自由と解放

(c)Photofest / Getty Images

『フィラデルフィア』ジョナサン・デミが自由の土地で描いた、人間の自由と解放

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デミが描く人間の自由・解放というテーマ



 ジョナサン・デミ監督といえば、91年のオスカー受賞作『羊たちの沈黙』が有名だが、『フィラデルフィア』は実はこの映画よりも前から準備を進めていて、エイズを発症した友人との交流がモチーフになっている。デミとは『スウィング・シフト』(84、ビデオ公開)で組んだことがあるゲイの脚本家のロン・ナイスワーナーには、エイズとなった18歳の甥がいた。監督と脚本家のこうした体験談も下敷きにして内容を作り上げたという。


 『羊たちの沈黙』と『フィラデルフィア』ではまったくトーンが異なり、共通点が見出しにくいが、デミの初期作品の流れをたどると、実はこの2作にも共通点があることが分かる。


 ロジャー・コーマン製作の監督デビュー作『女刑務所・白昼の暴動』(74)で描かれていたのは、女刑務所で不当な扱いを受けていた女たちの解放だった。彼女たちは立ち上がり、みんなで一致団結して解放のために動き出す。


  80年代の代表作の一本、コメディ『サムシング・ワイルド』(86)では堅苦しいサラリーマン人生を送っていた男が魅惑的な女に誘拐されることで自由に生きることの意味を知る。また、この映画の姉妹編的な『愛されちゃって、マフィア』(88)では、それまでギャングの夫が盗んできた品物に囲まれて生きてきたヒロインが、夫の死後、初めて等身大の人生を手にし、過去のしがらみから解放される。


 この流れで考えると『羊たちの沈黙』は過去のトラウマに苦しむヒロイン、クラリスが自身の闇を見つめ、解放される物語、という解釈も成り立つのだろう。


『羊たちの沈黙』予告


 後期の代表作『レイチェルの結婚』(08)も、家族の過去の死がトラウマとなっているヒロインが、姉妹の結婚式に参加することでその苦い過去と向き合い、再起しようとする物語。


 また、ドラマではないが、トーキング・ヘッズのコンサート映画『ストップ・メイキング・センス』(84)はタイトルが象徴的。「意味づけなんてやめてしまおう!」という呼びかけ、つまり、常識を超えた先にあるものを描こうとするアプローチには、デミが好む「自由・解放」というテーマが託されている。


 そんな流れを見ていくと、『フィラデルフィア』で余命わずかな主人公が自身の尊厳のために立ち上がる姿は、まさにデミ映画にふさわしい。不当な扱いを受けた主人公は自身の魂の解放のために前進し、一方、ゲイ嫌いの弁護士は彼との出会いを経て、自身のゲイへの偏見から解放されていく。


 “自由の土地”フィラデルフィアで監督は、またしても“自由・解放”というテーマの作品を作り上げたのだ。




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