1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. アメリカン・ユートピア
  4. 『アメリカン・ユートピア』デイヴィッド・バーンとスパイク・リーが示唆する“ユートピア”とは?
『アメリカン・ユートピア』デイヴィッド・バーンとスパイク・リーが示唆する“ユートピア”とは?

©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

『アメリカン・ユートピア』デイヴィッド・バーンとスパイク・リーが示唆する“ユートピア”とは?

PAGES


『アメリカン・ユートピア』あらすじ

2018年に発表されたデイヴィッド・バーンのアルバム「アメリカン・ユートピア」のワールドツアー後、2019年秋に大評判となったブロードウェイのショーを映画化。2020年世界的コロナ禍のため再演を熱望されながら幻となった伝説のショーはグレーの揃いのスーツに裸足、配線をなくし、自由自在にミュージシャンが動き回る、極限までシンプルでワイルドな舞台構成。マーチングバンド形式による圧倒的な演奏とダンス・パフォーマンス。元トーキング・ヘッズのフロントマン、デイヴィッド・バーンと11人の仲間たちが、驚きのチームワークで混迷と分断の時代に悩む現代人を”ユートピア”へと誘う。


Index


2018年にリリースされたアルバム「アメリカン・ユートピア」



 <アメリカン・ユートピア>というプロジェクトの原点となったのは、トーキング・ヘッズの元フロントマンだったデイヴィッド・バーンが18年に発表した同名アルバムである。92年にトーキング・ヘッズ解散後、バーンはソロ活動に励み、すでに何枚ものリーダーアルバムを出していた。近年は他のミュージシャンとのコラボ作が多かったが、そのアルバムは14年ぶりの単独ソロアルバム。


 リリースのニュースを聞いて、すぐにアルバムを買いに行った。けっして派手なサウンドではなかったが、何度も聞くうちに味わいが増すような内容で、けっこうお気に入りの1枚となった。紙ジャケットにも温かい感触があった。そこに入れられた<ドリマーズ>という短いエッセイの中でバーンはこんなことを書いている。「長い間、私は“アウトサイダー・アーティト“と呼ばれる人々のファンだった。そのうちのひとり、ハワード・フィンスターはかつてトーキング・ヘッズのジャケットを手がけたことがある」


 元牧師で、独学で表現を身につけたジョージア出身のフィンスター(1916~2001)が生前手がけたのは85年のアルバム「リトル・クリーチャーズ」のアートワークである。ヘッズのメンバーたちのユーモラでシュールな絵が描かれ、バーンは下着姿で大きな地球儀を抱え、「この世界の重さを感じている」という手書きの文字が添えられていた。「このアルバムについて最近、どんなイメージが込められていたのか考え直したが、そこにあるのは“より良き世界(ベター・ワールド)”の姿である気がした。希望、熱望、理想の姿を思い描くこと。そうしたものが絵の中に広がり、表現されている。アーティストたちは私たち同様、夢追い人(ドリマー)なのだ」


『アメリカン・ユートピア』予告


 そして、こうした流れを組むマイアミのアーティスト、パーヴィス・ヤング(1943~2010)の絵を「アメリカン・ユートピア」では使った。アルバム発表時にすでに故人だったヤングは人種も性別も漠然とした人物像を好んでいたという。ここではくすんだイエローを使った抽象的な人物像を採用。彼は何よりも人間に焦点を当てていたことにバーンは気づいた。


 「理想にあふれ、より美しい世界の中心にいるのは人間で、けっして建物や場所ではないはずだ」かつてバーンが“リトル・クリーチャーズ”と呼んだのも人間で、人にとって“より良き世界”が80年代のアルバムでは模索され、それが<アメリカン・ユートピア>プロジェクトにも引き継がれた。アルバムの次にワールド・ツアー(18)が行われ、次にブロードウェイのショー(19)となり、スパイク・リー監督による映画版(20)が完成した。


 映画の中でバーンはこう語りかける――「自転車や夕焼けやポテトチップの袋もいいが、何よりも人間を見るのがおもしろい」そう、あくまでも人にこだわり、人をみつめるために、今回の映画は立ち上がった。舞台の上には楽器もなく、立ちマイクもない。がらんとしたシンプルな空間に12人の裸足の人間がいて、歌い、踊り、演奏をする。ただ、それだけ。でも、だからこそ、おもしろい!




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. アメリカン・ユートピア
  4. 『アメリカン・ユートピア』デイヴィッド・バーンとスパイク・リーが示唆する“ユートピア”とは?