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『アメリカン・ユートピア』デイヴィッド・バーンとスパイク・リーが示唆する“ユートピア”とは?

©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

『アメリカン・ユートピア』デイヴィッド・バーンとスパイク・リーが示唆する“ユートピア”とは?

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時代を反映したカバーからトーキング・ヘッズまで



 そんな脳の進化の話から始まり、人間同士のコミュニケーションの問題へと発展する。若い頃は、テレビを見ると世界とつながると思い、バンドのレコード契約で得たギャラでソニーの最新型テレビを購入したという。テレビを買ったのは70年代だが、その話題にからめて歌う「I Should Watch TV」は2012年の曲。古い話題と新しめの曲が時を超えつながっていく。


 さらに選挙の重要性に話が及び、ブラック・ライヴズ・マターの問題も浮上。そこで歌われる「Hell You Talmbout」は歌手・女優のジャネール・モネイのカバー曲で、警官の犠牲になった黒人たちの名前が連呼されていく。この映画で最もパワフルな瞬間だろう。


 静かな感動を呼ぶのが、黒人作家ジェームズ・ボールドウィンの希望を失わない姿勢を讃えるコメントの後に歌われる「One Fine Day」。08年に盟友ブライアン・イーノと作ったアルバムに収録された名曲で、この時はフォーク風アレンジだったが、今回はアカペラで歌われることで賛美歌のような響きになっている。



『アメリカン・ユートピア』©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED


 トーキング・ヘッズ時代のナンバーとして嬉しい曲もいくつかある。「I Zimbra」はかつて「ストップ・メイキング・センス」では本編からはずされ、ボーナストラック(しかもメドレー曲)として入っていたが、今回は目立つ使われ方をする。歌詞はダダイズムの詩人、フーゴ・バルのナンセンスな詩が使われているが、ファシズムから逃れて、自由を貫こうとしたこうしたアーティストの姿勢を通じて、自身の意思を持つことの大切さを伝える。


 メンバー紹介で流れる「Born Under Punches (The Heat Goes On)」はヘッズのバンドとしての転機になった傑作アルバム「リメイン・イン・ライト」(80)の1曲目。アフリカのファンク・リズムを全面的に取り入れた革新的なサウンド作りを見せ、世界を変えた音となった。今回の舞台のメンバーたちの出身地も多彩なので、この曲のワールド・ミュージック的な世界観がメンバー紹介の場面にぴったり。


 また、冒頭に書いたように“より良き世界”を想定して描かれたジャケット・イラストが印象的なヘッズ時代のアルバム「リトル・クリーチャーズ」収録の人気曲「Road to Nowhere」では、先が見えない未来をテーマにしつつも、不安的な人生の旅路への希望が込められる。


 バージョンを変えて2度登場するのが、「Everybody's Coming to My House」でちょっと皮肉なバージョンと心温まるバージョン(歌:ザ・デトロイト・スクール・オブ・アーツ・ヴォーカル・ジャズ・アンサンブル)が聞けるので、その解釈の違いが楽しめる。




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