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『トミー』ザ・フーと監督ケン・ラッセル、時代の転換点で出会った運命

(c)1975 THE ROBERT STIGWOOD ORGANISATION LTD. All Rights Reserved.

『トミー』ザ・フーと監督ケン・ラッセル、時代の転換点で出会った運命

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『トミー』あらすじ

幼い時に目撃した事件のショックで心の内に閉じこもり、見ることも、聞くことも、話すこともできなくなってしまったトミー。愛すら理解できず、外界から遮断されたまま成長した彼は、青春期の混沌としたエネルギーをピンボールにたたきつけたことで生まれ変わっていく。自由な世界へと解き放たれたトミーは、やがて奇蹟の救世主にまつりあげられていく。


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スクリーンに戻ってきた異色ロック・ミュージカル



 近年、70年代や80年代に作られた洋画作品のリバイバル上映が増えてきた。東京地区ではザ・フーの傑作アルバムを映画化した異色のミュージカル『トミー』のリバイバル上映が始まった。最初にこの映画が日本で上映されたのは76年。当時としては最新のサウンドシステム、クインタフォニック・サウンドを使い、コンサート並みの大音量で上映された。そのため、同じ映画館の隣の部屋から苦情が来たとか、耳鳴りがずうっと止まらなかった、といったエピソードさえも残っているようだ。


 ロードショー後、名画座などでかけられた例はあったと思うが、ロードショー上映されるのは、本当に久しぶりだと思う。最初の日本公開から43年、原作アルバムの発表から50年目という節目の年。年代だけを考えると“骨董品”ともいえる領域に入っているが、現在のスクリーン上映に果たして耐えることができるのだろうか……?


 東京での上映はアップリンク渋谷とアップリンク吉祥寺の2館(2019年9月13日現在)。後者は昨年の12月に吉祥寺PARCO地下2階に誕生したばかりの複合ミニシアターで、特にサウンドシステムにも力を入れている劇場ゆえ、音にこだわった作品にはふさわしい劇場に思えた。ミュージカルといっても、かつてのハリウッド・ミュージカルのようにかわいらしい作風ではなく、原産国、英国ならではの毒にあふれた怪物的な作品である。スクリーンの前に座り、怪物が大きな眠りから覚める瞬間を待つことにした。


『トミー』予告


 始まるオープニング。ある男が岩山の上に立ち、夕日を見ている。それは主人公、トミーの父となる男ウォーカーで、母となる女性とピクニックを楽しんでいる。ふたりは愛し合っているが、男は軍人として戦場に行くことになる。母はひとりで子供を産み、英国が大戦に勝った日(1945年)に息子が誕生。その子はトミーと名づけられる。しかし、父は戦死し、母と息子だけが残される。


 そんな物語が始まり、ザ・フーのピート・タウンゼンドの最初のボーカルが聞こえてくる――「キャプテン・ウォーカーは家に戻ることはなかった。これから生まれる子供は父の顔を知らない」。そして、トミーの数奇な運命がたどられていく。俳優たちのセリフはいっさい排除され、歌だけで物語が展開する。目まぐるしくカットが変わり、次々に奇抜な場面が出てくる。個人的にはこれまで何度も見ていた作品だったが、テレビサイズの映像ではなく、映画として上映されることでいつもと違った印象がある。その音と画面。どちらも“大きさ”があってこそ、本当の良さが伝わる作品だ。



『トミー』(c)1975 THE ROBERT STIGWOOD ORGANISATION LTD. All Rights Reserved.


 原作のアルバムはドラッグ・カルチャーが盛り上がっていた1969年に発表され、その余波が残っていた70年代に映画が作られているので、不思議な幻覚作用が映画にも仕込まれ、それが体の芯までしみ込んでいく。見る人を映画の世界に引き込み、何度もその世界に浸りたくなる。そんな怪物的なパワーを持った作品は、今もスクリーンを縦横無尽に暴れまわった。



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