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『トミー』ザ・フーと監督ケン・ラッセル、時代の転換点で出会った運命
劇場での反応
最初の章で書いたように他の観客の意見を知りたくて、初日にアップリンク吉祥寺で観客取材を行った。ザ・フーやこの映画のファンが目立った。初めて見るという観客もけっこういたが、かつて劇場で、あるいはDVDなどで見ている人もかなりいた。
「昔、映画館で見たんですが、当時は自分もうんと若かったので、内容をきちんと理解していなかった。もう一度、確認したくて来ました」
「今、見ても、ぜんぜん古くないですね。今に通じる問題も描かれている。セリフがなくて、音だけで表現されるところが新鮮です。ここまで徹底的な構成のミュージカルも珍しいです」
「ザ・フーが好きで、DVDでは何度も見ていますが、スクリーンでは初めて見ました。最後にすごく興奮したので、2回続けて見ました。これからも通う予定です」
『トミー』(c)1975 THE ROBERT STIGWOOD ORGANISATION LTD. All Rights Reserved.
観客の中にはトミーのTシャツを着ている人もいて、熱量の高さを感じた。ザ・フーは海外に比べると日本では人気がないといわれてきたが、現場に行ってみると男性だけではなく、女性層もかなりいて、しかも年齢の幅も広かった(その後、渋谷のアップリンクで上映された時は、場内から拍手が出た回もあったと聞いている).
実はケン・ラッセルという監督は女性の描写にこだわっていると以前から思ってきたが、『Tommy』の場合、前半はトミーではなく、アン・マーグレット演じる母親が完全に主役である。彼女がロック・オペラの華のあるディーバとなって前半をひっぱり、女である自分と母親としての自分、その両方の立場でゆれる心理を見せることで、女性ファンの心もつかめる作品になったのだろう。
『トミー』(c)1975 THE ROBERT STIGWOOD ORGANISATION LTD. All Rights Reserved.
この映画の縦横無尽に画面をかけめぐる自由なイメージの数々。それは何よりも若者たちが“自由”と“解放”を求めていた70年代という時代の空気を感じさせるが、今、大画面でその自由な空気に触れてみると、妙に心が解放される。「この映画を見たあなたの感覚は以前とは違う」。それはこの映画のかつてのキャッチ・コピーだが、確かにその言葉に嘘はなかった。