監禁系サイコスリラー
蝶の熱心な蒐集家が、女子大生を地下室に監禁する『コレクター』(65)。人気小説家が愛読者に軟禁される『ミザリー』(90)。あるいは、武装した4人組がキャビンに押し入って、ある“選択”を強要する『ノック 終末の訪問者』(23)。被害者が監禁される、もしくは拘束された状態に陥る監禁系サイコスリラーは枚挙にいとまがない。
そしてこの映画でも、完全にタガが外れたフランセスがドアや窓に釘を打ち込み、青年を家から一歩も出させないように閉じ込めてしまう。上映時間の3/4を過ぎてから、『雨にぬれた舗道』は監禁系サイコスリラーであることが判明するのだ。著名な映画評論家ロジャー・イーバートも、「『雨にぬれた舗道』は、ホラー映画であることを宣言するのが遅すぎる」(*2)とコメント。改めて言うが、やっぱりこの映画はヘンである。
しかも本作がヤッカイなのは、普通は監禁される側=青年に対して観客が感情移入するものだろうが、彼も彼でヤバいキャラ造形であること。一言も喋らないのは単にある種の性癖だし、エロすぎる姉とも何だか近親相姦的な怪しい雰囲気。この映画は、我々の共感を全て拒否し続ける。
『雨にぬれた舗道』© MCMLXIX Commonwealth United
さらに言えば、この映画はスリラー的要素もほぼ削ぎ落とされている。ヒッチコックならばあらゆる超絶技巧を駆使して、この部屋から脱出できるかどうかをサスペンスフルに演出することだろう。フランセスと青年の対決をスリリングに描くことだろう。しかしながら、アルトマンはそんな“直線的すぎる表現”に興味はない。登場人物たちの深淵を覗き込むかのような、内面描写により舵を切っていく。インナースペースにこそ、真の闇が潜んでいるのだ。それこそがアルトマンが信ずる、“映画”なのである。
最後にトリビアを一つ。マイケル・バーンズが演じた青年役にジャック・ニコルソンも興味津々だったのだが、ロバート・アルトマンは「君は年を取りすぎていると思う」とすげなく断ったんだそうな。もしニコルソンが演じていたら、無垢な少年性は跡形もなく消え失せてしまっただろう。別の意味でのヤバい狂気が発動していたことだろう。全くもって賢明な判断である。
(*1)『ロバート・アルトマン わが映画、わが人生』キネマ旬報社
(*2) https://www.rogerebert.com/reviews/that-cold-day-in-the-park-1969
文:竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
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『雨にぬれた舗道』
「ロバート・アルトマン傑作選」
5月26日(金)より角川シネマ有楽町ほか、全国順次ロードショー
配給:マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム
© MCMLXIX Commonwealth United