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『雨にぬれた舗道』人間の深淵を覗き込む、アルトマンの表現主義的演出

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『雨にぬれた舗道』人間の深淵を覗き込む、アルトマンの表現主義的演出

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『雨にぬれた舗道』あらすじ

裕福な暮らしを送るフランセスは、窓の外から見える青年(マイケル・バーンズ)が気になっていた。土砂降りの公園のベンチに座り、完全に濡れ鼠状態。彼女はパーティを早めに切り上げると彼に声をかけ、風呂に入らせ、食事を与え、レコードを一緒に聴く。不思議なことに、彼は一言も声を発しない。彼女の問いかけにも一切反応しない。それでもフランシスは彼に世話を焼き、青年は気が向くと彼女の家に立ち寄るようになる。かくして、二人の奇妙で不思議な関係が築かれていく…


Index


表現主義の作家、ロバート・アルトマン



 ロバート・アルトマンと、アルフレッド・ヒッチコック。“アメリカ・インディペンデント映画の父”と呼ばれた男と、“サスペンスの神様”と称された男。彼らの間に何ら共通点はないように見えるが、実はアルトマンが演出家として名を馳せるきっかけを作ったのは、ヒッチコックだった。


 1957年に初の長編劇映画『非行少年たち』を手がけたものの、なかなか映画監督として芽が出なかったアルトマン。そこに、ヒッチコックがストーリーテラーを務めるテレビ番組『ヒッチコック劇場』の仕事が舞い込む。アルトマン自身はデビュー作に手応えを感じていなかったが、巨匠は慧眼鋭く若い才能を見抜いていた。キャロル・リンレイ主演の『若い人』、ジョゼフ・コットン主演の『クリスマス・イヴ』の2本を監督し、業界で認められる足がかりを掴む。


 朝鮮戦争を舞台にしたブラックコメディ、『M★A★S★H マッシュ』(70)。ハリウッドの舞台裏を辛辣に描いた群像劇、『ザ・プレイヤー』(92)。イギリス郊外のカントリーハウスを舞台にしたミステリー、『ゴスフォード・パーク』(01)。多彩なジャンルを横断してきたアルトマンだが、そのキャリアはスリラーから始まっていたのである。


 アルトマンは、著書の中でフェデリコ・フェリーニとイングマール・ベルイマンに影響を受けたことを明かしているが、ヒッチコックは決してフェイバリット・ディレクターではなかった。


「ヒッチコックの大ファンってことはなかったな。彼の映画は私には直線的すぎるんだ。『裏窓』(54)が彼の映画ではベストだと思うね。五感の一つを取り除くってアイデア、中庭や向こうのアパートで起こっていることが見えるのに聞こえないというのが気に入った。それからジェームズ・スチュアート演じる主人公を車椅子に固定することで彼を窃視者にするってアイデアも」(*1)


 「彼の映画は直線的すぎる」という表現は、いかにもアルトマンらしい。ヒッチコックは、スクリーンに映し出されるキャラクターのアクション&リアクションで、サスペンスを紡いでいく。一方アルトマンは、スクリーンには映し出されないキャラクターの内面に入り込んで、より深い精神世界へと分け入っていく。ヒッチコックを写実主義の作家とするなら、アルトマンは表現主義の作家なのだ。


 そんなアルトマン的感性によって撮られた作品が、『雨にぬれた舗道』(69)である。




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