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『エリック・クラプトン アクロス24ナイツ』クラプトン絶頂期のエキサイティングな演奏が堪能できるコンサート映画

©2023 Bushbranch Studios Ltd

『エリック・クラプトン アクロス24ナイツ』クラプトン絶頂期のエキサイティングな演奏が堪能できるコンサート映画

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古い映像の読み直しを見せる近年の音楽映画



 この時代のアルバート・ホールでのクラプトンを写し取った映像としては、すでにビデオ作品「エリック・クラプトン 24ナイツ」が作られている。こちらは90分で、新版は115分。上映時間も異なるが監督も前作のギャビン・テイラーからデヴィッド・バーナードへと変わった。その結果、まったく別の作品へと進化を遂げている。前作は13曲、今回は17曲。そのうち「ホワイト・ルーム」「エッジ・オブ・ダークネス」「ワンダフル・トゥナイト」「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」の4曲のみ重なっているが、ほとんど別テイクが使われる。前作は映像構成もうまくなかったし、画質も悪いが、今回はさすがの4K。驚くほど映像のクオリティが向上している。今回の映画の製作にあたった製作者のサイモン・クリミーは映画についてこう語っている。


「今回の映画のために音をドルビーで聞けるようにゼロの状態から組み立て直し、オリジナルのフッテージの映像のレベルも上げて編集し直した。ものすごく大変な作業の連続だった。ファンにとってはクラプトンの<ホーリー・グレイル(奇跡のような宝物)>とも呼ばれる素晴らしいパフォーマンスを劇場映画として初めて届けることができて、本当にうれしい」(ウェブマガジン、Rock&Blues Museより引用)


 監督のデヴィッド・バーナードは音楽物の映像を得意としていて、クラプトンの作品以外に、レディオヘッドビョークをはじめ、多くのミュージシャンの作品を手がけてきた(日本の宇多田ヒカルの映像もあり)。古いクラプトンの映像を再生し、コンサートの流れをより理想的な形に組み換え、映画館の大画面と音響で見るのにふさわしい作品になっている。


 この監督は音楽の呼吸をつかむのがうまく、別の日に行われたコンサートをつないでいるにもかかわらず、スムーズな流れを作り、その緊張感が途切れない。バーナードはクラプトンのしみじみとしたスタジオ・セッションをとらえた映像作品『エリック・クラプトン/ロックダウン・セッションズ』(21)の監督も担当していたので、クラプトンのミュージシャンとしてのツボがよく分かっているのだろう。



『エリック・クラプトン アクロス24ナイツ』©2023 Bushbranch Studios Ltd


 今回の映画で効力を発揮しているのがスプリット・スクリーン(分割画面)で、曲に合わせて2面や3面の映像を使い、クラプトンと他のミュージシャンの演奏を同時に映すことで臨場感が増している。たとえば、「アイ・ショット・ザ・シェリフ」では歌やギターを担当するクラプトンとドラムを必死にたたくフィル・コリンズが2面の分割で映るので、ふたりがもたらす音楽スリルを視覚としても体験できる。また、歌うクラプトンとギターを弾く手が分割で映し出されることで、シンガー&ギタリストのふたつの顔を持つ彼を視覚的に楽しめる。もとのフィルムはスタンダード・サイズだと思うが、分割画面を使うことで映像として広がりが生まれる。分割画面を効果的に使ったコンサートの原点といえば、『ウッドストック/愛と平和と音楽の3日間』(70)が浮かぶが、今回の映画も映像編集には工夫が見られる。


 ビデオ作品『24ナイツ』と映画『アクロス24ナイツ』の関係は、ザ・ビートルズの映画『レット・イット・ビー』(70、監督マイケル・リンゼイ=ホッグ)と配信作品『ザ・ビートルズ:Get Back』(21、監督ピーター・ジャクソン)の関係をも思わせる。同じ時代に撮影されたフッテージを使い、別の監督がまったく違う視点から、その映像を読み直すことでミュージシャンの別の側面に光をあてているからだ。過去のミュージシャンの貴重な映像の発掘作品としては『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』(18)もあった。アレサの70年代の教会での演奏を映像に収めた作品だが、音と映像の同調がむずかしく、完成は不可能と思われていた。しかし、現在のコンピューター技術のおかげで、監督(シドニー・ポラック)の死後、別のスタッフが完成にこぎつけた。ミュージシャンの古い映像の再生は音楽映画のひとつの動きかもしれない。


 クラプトンの場合、ライブ映像を過去に何本か残しているが、劇場映画として成立している『アクロス24ナイツ』は彼のコンサート映画の代表作になるのではないだろうか? その後のアルバム「アンプラグド〜アコースティック・クラプトン」(92)ではアコースティック路線で新しいファン層を獲得し、その映像作品も話題を呼んだが、『アクロス24ナイツ』ではバリバリのエレキ絶頂期のシャープな演奏にどっぷり浸れる。超マニア向きに「ザ・ディフィニティヴ・24ナイツ」と題された豪華なボックスセットも発売となっている。



取材・文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。




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『エリック・クラプトン アクロス24ナイツ』

6月9日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷・アップリンク吉祥寺ほか

6月16日(金)角川シネマ有楽町ほか 全国順次公開

配給:オンリー・ハーツ

©2023 Bushbranch Studios Ltd

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