「自分ネタ」をベースにした『レディ・バード』との連続性
グレタ・ガーウィグが書く映画の脚本は、基本的に「自分ネタ」をベースにしたもの。具体的な実体験をもとにフィクション化しているため、各作品にストーリー上のつながりはなくても、実質サーガのようにどこか連続性が認められる。
『フランシス・ハ』©Pine District, LLC.
例えば、2015年にやはりノア・バームバックの監督で、ガーウィグが共同脚本と出演を務めた『 ミストレス・アメリカ』(日本では劇場未公開。AmazonビデオやFOXチャンネルなどで視聴可能)は、『フランシス・ハ』の前日談とも言える。主人公のトレーシー(ローラ・カーク)はニューヨークに上京してきたばかりの18歳。彼女が通っているのはバーナード大学(ガーウィグの実際の出身校。「コロンビア大学の女子は私たちをバカにするのよ」なんてトレーシーの台詞も実感がこもっている)だが、学内の文芸サークルへの入部も認められず、新しい環境に馴染めない悶々とした日々を送っている。
このトレーシーは、おそらくかつてのガーウィグの自画像に近いものだろう(ルックスも似せている)。そして本作の中で女優としてのガーウィグは、トレーシーの母親が再婚を予定している相手の娘であり、レストラン経営を目指す年上のニューヨーカーの女性、ブルックに扮している。また、こうして考えると、『ミストレス・アメリカ』のさらにその前日談に当たるのが、地元サクラメントでの高校時代を描いた『 レディ・バード』になる、というわけだ。
『 レディ・バード』予告
特に『フランシス・ハ』と『レディ・バード』のつながりは濃く、ガーウィグの故郷であるカリフォルニア州のサクラメントに対する扱いなどは非常に興味深い。『レディ・バード』の高校生クリスティン(シアーシャ・ローナン)にとってのサクラメントは、脱出願望を募らせる退屈な片田舎でありつつ、しかし自分が確かに生まれ育った「愛憎の場所」。対して『フランシス・ハ』でガーウィグが演じる27歳のフランシスにとってのサクラメントは、都会で受けた傷心を優しく慰撫してくれる「癒しの場所」なのである。これはまさに、地元を離れてからの歳月がもたらした緩やかな意識変化に違いなかろう。
そして要注目、サクラメントでフランシスを迎える彼女の両親を演じているのは、なんとガーウィグの実の両親だ。『フランシス・ハ』のサクラメント帰省のシーンはほんの数分のパートだが、『レディ・バード』とは画面に映っている共通の風景もあるので、ぜひ細かく観比べてみて欲しい。