男たちの人生を切り裂いた悪法、刑法175条とは?
ここで、改めて刑法175条について解説しよう。同法はドイツが統一された直後の1871年5月15日に施行される。条項には男性間の性的関係を犯罪とし、獣姦、売春、未成年に対する性的虐待も罪と対象となった。1935年、ナチスは法の解釈を拡大し、隣り合って自慰行為をするなど、肉体的な接触を伴わない場合も”淫らな行為”とし、1937年までに年間8,000人を超える被疑者が法廷で有罪判決を受けている。彼らはゲシュタポによって強制収容所へ送られ、多くは収容所内で死亡したと言われる。ハンスは刑務所に移送されてきたサバイバーの1人という設定だ。
映画で描かれている通り、同条項は1969年に改正される。そしてその後1975年に再改正されるが、最終的に廃止に至ったのは、なんと1994年のこと。興味深いのは、それが西ドイツでの話であり、東ドイツでは1950年にナチスの修正案を廃止し、1968年に改正、1988年には全面廃止を決定しているという事実だ。劇中、失望するオスカーに対して「東ドイツに行けば自由になれる」とハンスが語りかける背景には、そんな事情があるのだ。
『大いなる自由』©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions
カンヌ国際映画祭でクィア・パルム賞の候補に
『大いなる自由』は2021年の第74回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の審査委員賞を受賞し、あまり報道はされていないがクィア・パルム賞の候補にも挙がっている。時代を飛びながら体現される苦闘と再生の物語は、かつてあった同性愛差別を告発しながら、それが依然として今の世の中に現存することを暗に訴えかけてくる。
アパレル業界から映画ライターに転身。現在、映画com、MOVIE WALKER PRESS、Safariオンラインにレビューやコラムを執筆。また、Yahoo!ニュース個人にブログをアップ。劇場用パンフレットにもレビューを執筆。著書に『オードリーに学ぶおしゃれ練習帳』(近代映画社刊)、監修として『オードリー・ヘプバーンという生き方』『オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120』(共に宝島社刊)。
『大いなる自由』
7月7日(金)より Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開
配給:Bunkamura
©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions