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『水を抱く女』愛は壊れる。CGは古びる。クリスティアン・ペッツォルト監督の作劇術【Director's Interview Vol.111】

(c)SCHRAMM FILM/LES FILMS DU LOSANGE/ZDF/ARTE/ARTE France Cinéma 2020

『水を抱く女』愛は壊れる。CGは古びる。クリスティアン・ペッツォルト監督の作劇術【Director's Interview Vol.111】

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東ベルリンから来た女』(12)でベルリン国際映画祭の銀熊賞(監督賞)を受賞し、『あの日のように抱きしめて』(14)や『未来を乗り換えた男』(18)等を手掛けてきた名匠、クリスティアン・ペッツォルト。彼のフィルモグラフィに、また新たな傑作が加わった。


それは、“水の精ウンディーネ”という題材に挑戦した野心作『水を抱く女』(3月26日公開)。第70回ベルリン国際映画祭の銀熊賞(最優秀女優賞)と国際映画批評家連盟賞をW受賞した話題作だ。


舞台は現代のドイツ・ベルリン。博物館のガイドをして働く歴史家ウンディーネ(パウラ・ベーア)は、恋人のヨハネスが別の女性に心移りし、悲嘆にくれていた。そんななか、心優しい潜水作業員のクリストフ(フランツ・ロゴフスキ)と出会い、彼女の心には安らぎが訪れる。だが、ウンディーネに付きまとう“影”が、ふたりの仲に亀裂を入れていく――。


「人魚姫」のモチーフでもあるウンディーネの伝説を、儚くも神秘的な愛の物語に昇華し、ドイツの歴史と絡めたペッツォルト監督。自ら脚本も手掛けた本作は、観る者の心にしっとりと吸い込まれてゆくことだろう。


今回は、ペッツォルト監督にオンラインで単独インタビュー。画面に映る彼の書斎は、一面が本棚であり、タバコの煙をくゆらせながら時に思案し、時に饒舌に語る姿は、映画から受けるイメージ通りの才人だった。映画に対する深い知識と浪漫に満ちた、ペッツォルト監督の言葉を“水先案内人”に、作品の深層に潜っていこう。


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「古びない」映画にするため、CGを廃した



Q:“水の精”を題材にした抒情的な作品ですが、そのぶんテキストから立体化させていくまで、世界観の構築やイメージの共有等々、大変だったのではないかと推察しました。


ペッツォルト:脚本を書いているときから、極力CGは使わない方針でした。なぜかというと、CGを使うとすぐ古びてしまうからなんです。特撮映画の第一人者であるレイ・ハリーハウゼンのように、時代を経ても見え方や価値が変わらないものが好きなので、お金がかかっても実写でやりたいと思っていました。脚本を書いている段階から「実写で出来なければ撮らない」と言っていましたね。


ということで、ベルリンのスタジオに、巨大な水中の世界を建造しました。ただ、これが大変で(苦笑)。まず、役者が演技をしても凍えないように、水温は38度に保つ必要がありました。ですがそうすると、海藻がすぐ腐ってしまうんです。そのため本物は使わず、プラスチックで海藻を作りました。といっても、水中で本物のように揺れる海藻を作るのは至難の業で、納得いくものができるまでに数か月を要しましたね。こういう試行錯誤こそ、映画制作の醍醐味だなと思います。



『水を抱く女』(c)SCHRAMM FILM/LES FILMS DU LOSANGE/ZDF/ARTE/ARTE France Cinéma 2020


Q:水中シーンは、どのように演出を施していったのですか?


ペッツォルト:水中シーンだと、監督としては役者に演出できないですよね。私は橋の上でモニターを観ながら指示を出していましたが、声なんか聞こえない(苦笑)。簡単なストーリーボードは用意したんですが、最終的にはカメラマンと役者が自由に表現する状況になりました。彼らからしたら、監督から解放されてのびのび動けたんじゃないかなと思います(笑)。


私は10歳の時に、親に連れられて水族館のイルカショーを見に行ったことがあります。そうしたら、親がいきなり私の目を手でふさぐんです。どうも、目の前でイルカたちが交尾を始めてしまったみたいで(笑)。その時はなんだかよく分からなかったんですが、「水の中で何かが起こっている」という想像力を掻き立てられた経験でした。その2年後くらいに、ジャック・アーノルド監督の『大アマゾンの半魚人』(54)を観て、女性が魔物に襲われるシーンに出会った時も衝撃でしたね。そんなことを、カメラマンや役者には伝えました。




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