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『水を抱く女』愛は壊れる。CGは古びる。クリスティアン・ペッツォルト監督の作劇術【Director's Interview Vol.111】

(c)SCHRAMM FILM/LES FILMS DU LOSANGE/ZDF/ARTE/ARTE France Cinéma 2020

『水を抱く女』愛は壊れる。CGは古びる。クリスティアン・ペッツォルト監督の作劇術【Director's Interview Vol.111】

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ドイツの人は、過去から逃げるように映画を作りがち



Q:もうひとつお伺いしたかったのは、作品全体に流れる“時間”についてです。水中をたゆたうように緩やかなテンポで物語は進みますが、日本でもハリウッドでも、近年はテンポが早い映画が増えてきています。ペッツォルト監督は、映画のテンポについてどうお考えでしょうか。


ペッツォルト:テンポに関しては、これまでに観てきた様々な映画から学びましたね。それこそ小津安二郎監督であったり、マーティン・スコセッシ監督だったり……。彼も昔は、いまみたいに早いテンポじゃなかったんですよ(笑)。


私にとっては、時間以上に“空間”が大切です。画面に映る人物の会話や動作といったような物理的な世界をカメラで捉えることが好きで、逆に手持ちカメラでの撮影は苦手で、あんまり行わないんですよね。



『水を抱く女』(c)SCHRAMM FILM/LES FILMS DU LOSANGE/ZDF/ARTE/ARTE France Cinéma 2020


Q:なるほど、ペッツォルト監督の作品が持つテンポ感は、空間を映すなかで生まれてきたものだったのですね。少し話が脱線するかもしれませんが、本作の中にドイツという国、中でもベルリンの歴史が色濃く反映されていたのが印象的でした。これは監督の過去作にも言えることかと思いますが、「歴史」というテーマについてはいかがでしょう?


ペッツォルト:そうですね、ドイツの歴史における「罪の意識を背負う」というものではなく、「それについて考えていく義務感、あるいは好奇心」は常に感じていますね。ここ何年か独・仏の合作でいくつか仕事をしてきたのですが、そのなかで「フランスの人には自分たちの確固たるイメージがあるのに、なぜドイツ人にはないのだろう」と思ったんです。


たとえば、第2次世界大戦後にイタリアでは『自転車泥棒』(48)に代表されるようなネオレアリズモが台頭しましたが、ドイツの人はどこかで過去から逃げるように映画を作っている節がある。それはなぜなのだろう?と考えるようになりました。


日本であっても、終戦後の1950年代の映画などを観ていると、「自分たちの再発見」や「これから、私たちはどう生きていくのか」という作り手たちの意識が顕著に感じられます。でもドイツには、それがないんですよね。だからこそ、自分の映画ではドイツの歴史について考えていきたいと思っています。




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