『大いなる自由』あらすじ
第二次世界大戦後のドイツ、男性同性愛を禁じた刑法175条の下、ハンスは自身の性的指向を理由に繰り返し投獄される。同房の服役囚ヴィクトールは「175条違反者」である彼を嫌悪し遠ざけようとするが、腕に彫られた番号から、ハンスがナチスの強制収容所から直接刑務所に送られたことを知る。己を曲げず何度も懲罰房に入れられる「頑固者」ハンスと、長期の服役によって刑務所内での振る舞いを熟知しているヴィクトール。反発から始まった二人の関係は、長い年月を経て互いを尊重する絆へと変わっていく。
Index
時代を行き来する物語
男性間の同性愛が禁じられていた第二次大戦後から1960年代後半のドイツで、捕えられても捕えられてもゲイとして自由に生きたいと願う男ハンス。彼が刑務所で出会う謎めいた受刑者ヴィクトールとの20余年にも渡る交流の物語。『大いなる自由』というタイトルには痛烈な皮肉が込められているが、とりあえずそのことは後にして、時代間を頻繁に行き来する脚本の妙と、『水を抱く女』(20)や『未来を乗り換えた男』(18)など、もはやドイツ映画界には欠かせない存在となったフランツ・ロゴフスキ(ハンス)、そして、ゲオルク・フリードリヒ(ヴィクトール)の精密で感動的な演技について解説しよう。
物語の構成はシンプルだ。始まりは1968年。公衆トイレで相手を物色していたところを警察に見つかり、刑務所に入ってきたハンス。彼は投獄されたのが初めてではないことが分かるくらい太々しい。出迎えるヴィクトールも、ハンスの見た目が以前と違い短髪で口髭であることを冷やかす。「それが流行なのか?」「ああそうだよ」2人はまるで旧友のようだ。
『大いなる自由』©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions
時代は遡り、大戦終結直後の1945年。バリカンで丸刈りにされたような頭で、痩せ細ったハンスが初めて入獄してくる。同じ部屋にはヴィクトールがいる。扉には”175”というプレートが差し込まれる。ハンスが同性愛を禁じた刑法175条を逸脱した罪で逮捕されたことを示す数字だ。ヴィクトールは「変態はお断りだ」と拒絶するが、ハンスがナチスのユダヤ人収容所にいたことを知ると、手首に刻印された収容所の識別番号の上に入れ墨を入れて消してくれる。それが2人の友情の始まりだった。
監督のセバスティアン・マイゼとトーマス・ライダーによる脚本は、1945年と1968~69年との間を何度か行き来しながら、ハンスとヴィクトールに何が起きて、何を失ったのかを、刑務所という限定空間の中で描いていく。鍵になるのはその中間に挟まれた1957年のエピソードだ。同じ刑務所で、ハンスは愛を誓い合った恋人のオスカー(トーマス・プレン)と再会する。その時のハンスは当時流行のリーゼントヘアで決めている。自由に愛し合えない時代に自分たちの未来はないと絶望するオスカーを、ハンスは懸命に勇気づける。だが、直後に起きた予期せぬ出来事がハンスから生きる喜びを奪い去る。そんな時、側に寄り添ったのがヴィクトールだった。