正邪の狭間に佇む子供たち
本作の舞台は、ノルウェー郊外の住宅団地。9歳の少女イーダ(ラーケル・レノーラ・フレットゥム)は、⾃閉症で⼝がきけない姉のアナ(アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタ)と、両親の4人暮らし。やがて彼女は、手を触れずにモノを動かすことができる少年ベン(サム・アシュラフ)、アナの感情を読み取ることができるアイシャ(ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイム)と出会い、友情を深めていく。
『イノセンツ』は、文字通り純真無垢な子供たちが、善悪の彼岸を超えて密やかな遊びに耽溺する物語だ。エスキル・フォクトのコメントを引用しよう。
「⼦供は善悪の概念を超えている、もしくはそれよりも前に存在していると思います。しかし、⼈は純粋な⼼で⽣まれてくる、⼦供は⼩さい天使だ、とは思いません。⼦供は共感性も道徳も持たずに⽣まれてきて、私たちがそれを教えなければいけないのです。だから⼤⼈が悪だと思っていることを、⼦供がやってしまうと⾯⽩いのです。道徳はまだ完全に形成されておらず、より複雑です」(*)
『イノセンツ』©Mer Film
本作の主人公イーダは、まさしく“道徳がまだ完全に形成されていない”存在として登場する。姉が何も喋れないのをいいことに、太ももをつねったり、靴にガラスの破片を入れたりして、サディスティックな歓びに身を浸らせる。演じるラーケル・レノーラ・フレットゥムちゃんは、非常に可愛らしい女の子なのだが、時折見せる笑顔と穢れない瞳が妙にデモーニッシュに見えてしまって、心胆を寒からしめることもしばしば。
同じ団地の別棟で暮らしているベンも、その瞳に悪魔を宿している。家庭環境に問題を抱え、友達もいない孤独な少年の彼は、動物を可愛がる一方で残酷な仕打ちをしてしまう。演じるサム・アシュラフくんは、何かに怯えているかのような表情が印象的。もちろん、アナを演じるアルヴァ・ブリンスモ・ラームスタちゃんも、アイシャを演じるミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイムちゃんも(みんな名前が長くて覚えられん)、子供たちの演技は神レベルで素晴らしい。
年端もいかない少女、少年たちが超能力を操る物語は、これまでも数多く作られてきた。ブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』(76)、スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』(80)、マーク・L・レスター監督の『炎の少女チャーリー』(84)、ダリオ・アルジェント監督の『フェノミナ』(85)。そしてこれらの多くは、ホラーという形式を纏って現れる。